検索窓
今日:30 hit、昨日:1 hit、合計:84,101 hit

episode106 ページ16

「あ、イカ焼きだ!! ね、赤井さんイカ焼き!! イカ焼き買って!!!」

窓の外から、美味しそうなイカ焼きの店が見えた。思わず私は叫んだが、無視して通り過ぎる赤井さん。


「もう! 赤井さん、赤井さんってば!」

なによ。もう。
ぶつぶつ文句を言っていたら、いつのまにか車が止まっていた。
あの日____赤井さんが私を尋問して、二人の信頼関係がボロボロになった日。

あの日と同じように、車は工藤邸の前に止まって、赤井さんはじっと私を見つめていた。


赤井さんが眼鏡を外す。
そっと瞳を開いた。
綺麗なエメラルドグリーンの光が、きらきらと夕日に反射する。


いいな、宝石みたい。
触れてみたい、なんて思う。


あの日と、決定的に違うものがある。


それは、多分______


ぼうっと赤井さんを見つめていたら、赤井さんが私にそっと手を伸ばした。
私の髪の毛をそっとなぞって、ゆっくりと顔が近づいてくる。
形の良い鼻と唇が、視界いっぱいに広がった。




唇に、少し掠れた、暖かいものが触れた。






あ。





息をつく暇もなかった。


あまくて、ふかくて、とろけそうなほどだ。



いままで、一度だって知らなかった、知ることのできなかった、柔らかさだ。





いち、に、さん、よん、





鼓動の音で、時が刻める。


ドミノかパタパタ倒れていくみたいに、意識のかけらがばらばらに離れていく。



息をしようと思ったのに、うまくできない。


あかいさん、と呼ぼうとしたのに、声もうまく出なかった。



もう一度、息を吸おうとしたら、唇から暖かさが消えた。



赤井さんの顔は相変わらず、見えなかった。


何故だろう、と思って、気がついた。



赤井さんが、私を、ずっと抱きしめていたからだ。
それがわかった瞬間、何故か私の目から、ぽとりと涙が溢れて落ちた。









.

episode107→←episode105



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (234 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
1053人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

やっち(プロフ) - 更新お待ちしてます (2022年4月22日 11時) (レス) @page23 id: aabe067d77 (このIDを非表示/違反報告)
みー - 主人公ちゃんも赤井さんも魅力的で何度も読み返しちゃいます、、いつかまた戻って更新されてるの楽しみにしてますね! (2021年8月31日 20時) (レス) id: fa7939d4a9 (このIDを非表示/違反報告)
S(プロフ) - 面白かったです。更新楽しみにしています!!! (2021年6月2日 2時) (レス) id: 3c947ce476 (このIDを非表示/違反報告)
ふわ - めっちゃくちゃおもしろかったです! (2021年4月23日 17時) (レス) id: 1d6a9bd8f3 (このIDを非表示/違反報告)
キサキ(プロフ) - 面白くて何度も戻ってきて読んじゃいます、更新お待ちしております頑張ってください!!! (2020年10月20日 10時) (レス) id: a8bb3b0a09 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:海星 | 作成日時:2019年9月30日 12時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。