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視線の先に、今まさに捜索されている当の本人であるAが、木に登って子猫を助けようとしていたのだ。
いつものドレスとは違い、そこらの庶民と同じような、いやそれよりも動きやすそうな服装でスカートが捲れ上がっているのに気にも留めず、細い枝先にいる子猫に向かって懸命に手を伸ばしている。
常の涼しげな表情ではなく、必死なその様子にゾムの足が無意識にそちらに向かって動いた。
「もう、少し…!」
ふるふると震える腕を懸命に伸ばせば、ようやく子猫の首根っこを摑まえたようだ。
達成感と安堵から思わず歓喜につい勢いよく上半身を起こせば、その揺れで細い枝は軽快な音を立ててあっさり折れた。
子猫だけでも助けようと胸に抱え、襲い来るだろう痛みに耐えるためにきつく目を閉じればいつまで経っても痛みはこない。
痛みの代わりに想像と違った地に足がつかない感覚にそろりと目を開けると、フードと長い前髪に隠されながらも真剣な表情のゾムがAを横抱きに抱え、顔を覗き込んでいた。
「怪我はないか」
どうやら助けられたようだとどうにか頭の中で結論付けてぎこちなく頷けば、ゾムは息をついてゆっくりとAを地面に降ろした。
「お姉ちゃん!大丈夫?!」
途端に駆け寄ってくる女の子に子猫を渡せば、飼い主の腕の中で安心そうに眼を細める子猫にAも目尻を下げて喜んだ。
しかし、その間に聞こえてきたゾムの言葉にAの背中に冷や汗が伝う。
「Aなら見つけたで。今から連れて帰る」
そう短く告げてAを見やれば、子猫を抱える女の子が今度はゾムに駆け寄った。
「ゾムお兄ちゃんかっこよかった!」
「おん、ヒーローみたいやったろ?」
「うん!じゃあお姉ちゃんはお姫様だ!」
「せやなぁ、今このお姫さん内緒でここに来てもうてるから、誰にも言うたらアカンで?」
「うん!あ、でも他の子たちも先生たちももう知ってるけど大丈夫かな?」
「…なるほどなぁ?」
近しい間柄の会話なのは聞いていても分かる。
だが、その話の内容がどうにも雲行きが怪しくなっているのにAは気づかない振りをしようとしたが、ゾムの視線がじっと刺さり痛そうに顔を背けながら胸を軽く抑えた。
先生を呼んできて、というゾムのお願いに笑顔でいいお返事を返した女の子が子猫を抱えたまま建物の中に消えればAはそっとゾムを視線だけで見やる。
見て、すぐに後悔した。
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作者名:乃鴉 | 作成日時:2020年6月24日 19時