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「確かに普通に作っても多少おいしくできると思います。でも、できるなら実際に街でどのようなお菓子が流行っていて、それがどういった味なのかを実際に街で体験してみたいんです。そして、もし私にも作れそうなものなら“あの子たち”にも作ってあげたいんです」
真っすぐなAの嘆願に、ゾムはすぐにAが作ってあげたい対象を理解し微かに目尻を下げてふっと笑みを零した。
「街まで付いてくって言うたのは俺やし、どこへでも連れてったる。お姫様」
ゾムが理解してくれたことを察したAは深紅の瞳を輝かせて細める。
嬉しそうなAの笑顔にまだ内容を理解しきれていなかったトリシアもAにとっていい方向に話が転んだことだけは察して何も言わずにAの言葉に頷いた。
早速街まで出かけた三人は赴くままに歩き、目につくお菓子を三人でつついた。
冷たいお菓子、あったかいお菓子、クリームのお菓子、フルーツのお菓子。
大通りを歩く町人たちを観察しながら色々なお菓子を食べ歩いたAの行きついた先は。
「これ、おいしいです」
おやつの時間になった頃。
歩き休めとして入った喫茶店でAの心を奪ったのは、きつね色に焼けた歪で丸く薄い皮の中にカスタードクリームを閉じ込めた冷たいお菓子だった。
薄い皮を齧ればふわりと香るバニラの香りと溢れる冷たいカスタードが口の中を満たし、舌も心も甘く染めていく。
美味しそうに頬張る姿は愛らしいものがあるが、ゾムは同じものを見て苦笑いした。
「よりによってこれか…」
「これはまた…難易度が高いものを」
Aにロックオンされたお菓子の難易度に二人とも苦笑いを浮かべたが、幸せそうに食べるAのためにと食べ終わった後に喫茶店を後にして今度は材料集めの段階になった。
「砂糖とバターと卵と牛乳はひとらんに貰って基地にあるもんで作ってええと思う」
「ですが、美味しくできなかったら申し訳ないです…」
「別にそんくらいで気にする奴やないけど、上手くできたら一緒にひとらんの分も届けたったらええやん。きっと喜ぶで」
「そう、でしょうか」
「ついでにマンちゃん呼んで味見させたろ。絶対に二つ返事で頷くで」
「おいしくできたらエーミール様も誘ってお茶会もいいですね」
楽しそうに話すAとゾムと、その二人の一歩後ろから静かについて歩くトリシアは足取り軽く基地へと戻っていく。
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作者名:乃鴉 | 作成日時:2020年6月24日 19時