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「グルッペン、一つ聞きたいんやけど」
訊ねれば、すぐに少し不機嫌そうな低い声がエーミールの鼓膜を揺らした。
「何だ、忙しいんだが」
「A様のことで、ゾムさんが今言っとったんやけど」
「…ゾムが？」
「そもそもA様に侍女を付ける話は何でこんなに遅くなったんや？普通なら来て早々そういう話になるはずやろ」
「あー…」
エーミールの尤もな問いグルッペンは気まずそうに言葉を探しているように聞こえた。
いつも的確に物事を判断しきっぱりと断言する傾向にあるグルッペンにしてはとても慎重な言葉選びにエーミールはますます眉を顰めた。
「もしかして、そのことでも何かあったんか？」
「なにかあったというより、何もなかったというのが正しいというか」
「は？」
「A殿自身が侍女を付けたがらなかったんや。自分のことは自分でできるって言い張って。一応X国にも一人くらい侍女を寄越せ言うたら必要ないの一点張りで俺も意味分からんとこや」
「…王族のA様に、護衛一人侍女一人もつけないのはおかしいって、ゾムさんが言うとった。前々から俺らの中でも疑問やったけど、それって何でA様がこの国に来たのかと関係はないんか」
ゾムならそう言うだろうな、とグルッペンは一言返し沈黙した。
どうやら目に見えない向こうで思考に耽ってしまったらしい。
こうなれば暫くは思考の渦の中から出てこないことを知っていたエーミールは一言通信の終了を告げて通信を切ろうとした瞬間。
「エーミール」
呼ばれて、エーミールは不意に背筋が伸びた。
「なるべくA殿を一人にしないようにしろ」
それはまさしく総統としての命令で、エーミールは是を返し今度こそ通信を切った。
ゾムの言葉が頭の中をぐるぐると回り、結論が出ない。
“「この国でAに何かあったら、誰が守ってやれるんや？」”
正直この国の人間が他国の人間であるAを守る義理はない。
ただAの人柄ゆえに、今は親しい関係が築かれているだけの砂の城ほどの脆さなのだと知ってエーミールは顔を俯けた。
「…A様の本当の味方は、どこにおるんや」
味方になってあげたい気持ちはある。
それはゾムも一緒なのだろう。
だが一度戦争が始まってしまえば言葉通りAはW国にとってX国の捕虜であり、人質となってしまう。
エーミールは気づいてしまった現状にただAを案じることしかできなかった。
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作者名：乃鴉 | 作成日時：2020年6月24日 19時
