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「…うちの者が、申し訳ない」
「…いえ、その…こちらこそ荒立ててしまい大変申し訳ありません」
文句を言う相手が唐突に消え誰に何をぶつければいいのか分からず、ただ礼儀を欠かさないグルッペンにAは慌てて頭を下げながらそう言うことしかできなかった。
一先ず解散、というところでオスマンがAを連れて部屋を出ると後ろから2人に並ぶ男がいた。
「どうもー、鬱です」
藍色のスーツに紅色のネクタイを締めた男が、スーツと同じ藍色の瞳を細めてへらりと笑いながらAに名乗る。
名乗られればAも軽く頷いた。
「初めまして、鬱様」
「様とかええよ、そこまで偉いやつちゃうねん」
「それでは、鬱さん」
「ええね、美人にそう呼ばれるとグッとくるわぁ」
「お上手ですね」
「大先生…別国とはいえ王族の方にタメ口は…」
端から見れば馴れ馴れしい態度に見える鬱先生に思わずオスマンが苦言を呈せば、Aの方からそれを止める言葉を返された。
「大丈夫ですよ、王族とはいっても私自身にそこまで地位も価値もありませんので」
「いえ、ですか…」
「むしろ鬱さんのように気楽にしていただけると助かります。こちらの無茶だと自覚しておりますから」
「せやって、マンちゃん。ほんなら僕もAさんと呼ばしてもらってもええ？」
「ふふ、いいですよ」
「……大先生」
「マンちゃん顔怖いて」
「本当に大丈夫ですよ、オスマン様。それに鬱さんは私がどのような人物なのか見極めにきているだけのようですから」
微笑みながらさらりと言われた言葉に、鬱先生が「え」と声を漏らし、オスマンは細い目を見開いて2人とも足を止めた。
立ち止まる2人と合わせて足を止めて振り返った深紅の双眸が鬱先生を捉える。
「このような形でこの国にきた私が、害を成す存在かどうか見極めるためにいらっしゃったのでしょう？」
「…嫌やなぁ、僕は純粋にAさんと仲良うしたいだけやで」
「そういうことにしていただいても構いませんが、末端とはいえこれでも王族の立場ですからね。視線には慣れてるんですよ」
くすりと笑んで細められた瞳から真意は窺えない。
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作者名：乃鴉 | 作成日時：2020年6月24日 19時
