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気軽に話す内容ではないが、ゾムから話を振ったということは何か言いたいことがあるのだろうとAはゾムの言葉を待つ。
「いつか子供は巣立っていくんや。蛹から蝶になるように、って名づけられたんや」
「そうですか」
「俺も」
一瞬、言い噤むゾムだがすぐに吐き出すように言葉を続けた。
「俺にも、親はおらん」
「…そう、ですか」
「物心ついた時から訓練と裏の仕事やらされてきたから、正直Aの言う王族の責務だとか、責任とかよう分からんねん。せやけど、Aを見てそれを背負うのにも覚悟が要るんやなって、思った」
足を止めて、真っすぐAを見つめる若草色の瞳がAの足も止めた。
「やから、ごめん。あの時Aのことよう知りもせずに否定してもうたこと」
「ゾム様…」
「まだAの言葉の全部に納得したわけやないけど、少なくとも何も知らんと否定してええもんではなかったから」
それを聞いて、Aはゾムがわざわざ足を止めてまで話をした理由を理解した。
真摯に謝罪をするゾムの言葉に嘘はなく、若草色の瞳はAを強く捉えていた。
礼儀には礼儀を、真摯には真摯を。
自分を理解しようと歩み寄ってくれたゾムに、Aは言い表せない何かを感じて目の奥が微かに熱くなったことを感じながら深く頭を下げた。
頭を下げたことで目の前で慌てる気配を感じる。
「こちらこそ、あの時は大変失礼いたしました。ゾム様の言葉を表面上だけで捉えてしまい、八つ当たりしてしまいました」
「八つ当たり…」
「ええ、その…言葉は違えど、私を卑下する言葉には慣れておりますから…。ただあの時はどうしても苛立ちが勝ってしまい…」
王族であるAを卑下することができる人間など、立場上そうはいないだろう。
Aの自国での立場を想像したゾムは思わず顔を顰め、頭を上げてそれを見てしまったAは思わずへらりと苦笑いをしてこれ以上の回答避けた。
Aがこの国で過ごしてきた2ヶ月、ゾムにとって少なくともAは悪い人間とは思えなかった。
最初こそ自分が売ってしまった喧嘩をAが買って険悪にはなってしまったものの、他の幹部たちと会話したり過ごしたりするのを横目で見ていると好奇心があり、礼儀もあり、人当たりも良く悪い部分を見つけられなかった。
内ゲバをするコネシマやシャオロンたちを見て楽しそうに、羨ましそうに笑っていたのを見たのは記憶に新しい。
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作者名:乃鴉 | 作成日時:2020年6月24日 19時