子供のまま、痛いまま２【吉沢亮】 (ページ7)

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吉沢side

一日、一週間、一ヶ月と早いスピードで時間が流れていく。
先生と時々会ったりしながら、俺は大学を卒業して働き始めた。

そして金曜日の今日。
仕事で電車に乗って向かった先は、偶然にも俺の通っていた高校の近くだった。

…懐かしいな。

駅から学校までの道、近くにあったコンビニ、少し大きくなった桜の木。

仕事はなるべく早く終わらせた。
日が落ち始める時間に高校の近くを歩いては、変わらない景色全てを目に焼き付けた。

そろそろ帰ろうと駅に向かうと、少し先に女性が歩いている。

どこかで見たことがある後ろ姿だった。

「…二階堂先生？」

記憶から辿り着いたのはその人で、思わず彼女の名前を口にしていた。
そんなに大きな声ではなかったと思うけど、聞こえたらしい彼女は振り返った。

「あ！」

「…え？」

思いっきりこっちを指差して駆け寄ってくる。
思い出したと言わんばかりの声色で俺の名前を叫んだ。

「吉沢くん！」

「…お久しぶりです」

少し圧されながらもそう言えば、久しぶりだね、と先生は笑った。

.

ちょっと話そうと連れてこられたのは、歩いて五分くらいのところにある居酒屋だった。
仕事帰りのサラリーマンがたくさんいて、賑やかな雰囲気が楽しい。

枝豆をつまみにして、冷たいビールを煽った。

「吉沢くん、スーツってことは仕事で来たの？」

「はい。ここら辺に出張で」

昔と変わらず綺麗な二階堂先生は、大変だね、と言って口元に笑みを浮かべた。

「吉沢くんって、今もAと会ってる？」

「…会ってます」

そう言った途端先生は視線を落とした。
口元は笑ったままだった。

＿＿そういえば、最近あんまり話してないかな

いつかのA先生が言った言葉を思い出した。

「二階堂先生は…会って、ないんですよね」

「うん。嫌われたかもなー…」

ため息混じりに吐き出した本音には、色々な感情が絡み合っているようだった。

先生は垂れた髪を耳に掛けて、顔をこっちに向ける。

「話してもいいかな、Aのこと」

反射的に頷いていた。
先生は、見たことがないほど弱々しい笑顔だった。