３ S ページ3
一度ひとつのことが気になると、その先にある細部の物事まで突き詰めないと気が済まない。
俺は昔からそういう性分だった。
もちろんそれが役に立ったことは大いにある。
学校で習ったことをそのままで終わらせないおかげで知識は増えたし、
なにより調べるという作業自体が結構好きだったりする。
俺がこの職業に就くことができているのも、この性格だからこそと思っている。
『ＭＥＭＯＲＹ ＡＵＤＩＴＯＲ −記憶監査人−』
胸章に刻まれたその文字を初めて目にした時の感動は忘れることができない。
記憶の売買が一般化した今の時代、誰もが一度は夢見るといわれる職業。
誰かの記憶をのぞくことができたなら、親しい人と記憶を共有できたなら。
百年も前に遡れば、人びとはそうして薄れていく記憶をただ惜しむだけだったという。
そんなもどかしく切ない思いをすることはもう無い。
忘れる前に保存して、要らない記憶は取り除いてしまえばいいのだ。
そうして誰かが幸せを手に入れるために、最大限の手助けをしたい。
この胸章を手に入れたあの日、俺はやっとその夢が叶ったことが嬉しくてたまらなかった。
上手くいくことばかりではないけど、今も誇りをもってやっている。
「今日もちょっとやりすぎたかなあ…。また呆れられる」
突き詰める性分はどうやら良いことばかりでもないらしい。
顧客ひとり一人に時間をかけすぎてしまうこともしばしばで、上司から呆れられつつある。
今やっていることがひと段落したら、今日は終わりにしよう。
「いや、やっぱり田淵さんのほうも片づけて…、ん？」
決心が早々に揺らぎそうになったところで、デスクのコールランプが点滅した。
目の前の空間に画面が現れて、そこには大きく『二宮和也』と映し出されている。
「もしもし、櫻井だけど、二宮？」
「ああ、翔さん？ 今夜の飯は頼んだ」
「なっ、え、いきなり掛けてきてそれ？ マジで？」
「うん、マジ、奢って。 いいじゃん。
どうせ俺と飯いかないと、社畜と化してあなたの一日は終わるんだから」
「お前な、俺を何だと思って…」
「なに、違うの」
「…いや」
「ほら図星じゃん。 はい、っつーことで十分後にロビーね」
「あっ、ちょっと、」
−通信が終了しました−
ああもうっ、と思わず声が漏れつつ、俺は簡単に準備をして部屋を出た。
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作者名：凛南＊* | 作成日時：2017年5月30日 21時
