恋の予感 ページ37
轟side
俺は万能を強く抱きしめ、言った。
どうかここに存在してくれと言わんばかりに。
｢居なくなればいいなんて...頼むから、言わないでくれ｣
｢！ｯ......ごめん｣
万能がそう言ったのが僅かに聞こえた。
｢...轟くんは、優しいね。君もやっぱ、ヒーローだよ｣
万能がこぼしたその言葉が、どういう意味だったのか、俺には良く分からなかった。
｢お前が...何を抱えているのかは良くわかんねぇし、別に詮索しない。
でも...一人じゃねぇだろ、お前は。
緑谷や爆豪がいるだろ｣
万能がピクッと肩を上げて反応した。
｢だから、大丈夫だ。それに、お前がどんなでも、あいつらはお前を醜いだなんだって言わねぇんじゃねぇのか？お前が一番分かってんだろ？｣
｢...うん｣
｢だから...もし良かったら、俺のことも頼ってくれねぇか？｣
少しだけ距離を取り、万能の目を見て俺は言った。
｢！......ありがとう。
じゃ、お言葉に甘えて。
あ、この話は、二人の秘密だよ？｣
そう言って優しく微笑む万能。
...何だろう。万能の言葉を聞くたび、胸が、何だか苦しくて、でも、痛ぇわけじゃねえ。
心臓の心拍数が徐々に上がっていくのが分かる。
｢轟くん？｣
｢A｣
｢...へ？｣
俺がそう言うと、ポカンとした表情で見つめ返してきた。
｢Aって...呼んでもいい、か？｣
そう聞くと、最初は戸惑っていたが、最終的には｢いいよ｣と言ってくれた。
｢と、とりあえず、離してもらってもいいかな？｣
頬をかきながら俺に言った。
｢あ、悪ぃ｣
そう言って回していた腕を外し、距離をとった。
｢...ありがとね、轟くん。こんな話聞いてくれて｣
｢いや別に...聞いてあげただけだしな。何も力になれなくて悪ぃ｣
｢いやいや、大丈夫だよ？私は聞いてくれただけで、凄く嬉しかったし。
こんな話、デクにもかっちゃんにも言えなかったから、何かスッキリした｣
俺はそれを聞いて少しだけホッとした。さっきまでの万能の暗い雰囲気は消えたようだ。
｢あ、あと...左の件。別に私に強制する権利は無いし、ゆっくり考えてほしい。
お願いはしたけど、轟くんの気持ちの整理がついてないうちに、色々言ってもあれだしね。
きっと、迷ってるんだよね？
でも、大丈夫だよ、君なら。
...ま、とりあえず｣
深呼吸してから、万能は俺の目を見て、
｢決勝、頑張ってね｣
じゃ、と言って、Aは笑って立ち去って行った。
この気持ちが"恋"だと分かるのは、もう少し先の話だ。
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作者名：夢桜 | 作成日時：2019年3月20日 20時
