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「……ま、いくら強情張っててもいつかは嫁に貰われてたんだろーな。お前ェも」
「……総悟?」
「んで、どこぞの馬の骨と仲良くやって、子供でも出来ちまって」
月を見つめながら、ぽつぽつと。落とされる言葉たちの真意がわからなくて、私は思わず声を上げていた。
だって、折角今幸せがあるのに、総悟のいない未来なんて思い浮かべたくなかったから。
そいつがどうしてそんなことを言いだしているのか微塵もわからないまま、せめてもの抵抗に着物の袖を引っ張ってみる。しかし、効き目はゼロなよう。
それどころか総悟はまた息を吸って、
「俗に言う、幸せってやつがあったんだろーな、そこにゃ」
何とも言えない色を纏った声を、ひとつ。
その、そいつらしくない言葉に。私の現在の幸せを否定するかのようなそれに、私はどうしようもない憤りを感じた。……一回肩でも叩いてみようかと意を決し、右手を持ち上げようとした――その瞬間。
「――まァ、んなもん許せやしねーけど」
「………はい?」
「てめーの隣に俺以外の男が立ってるってだけでトチ狂っちまいそうにならァ。……ったく、変に格好つけようとするもんじゃねェな」
「………はい?」
「あのときお前に縁談勧めてた俺の気がしれねェ」
……話の流れが予想外の方向へ行くものだから驚いてしまった。持ち上げかけた右手が、不格好に萎れていく。――でも、気持ちの方は真逆だった。
総悟が現在の選択をこれっぽっちも後悔していないことに安心して、むしろ過去を悔いていることに笑いが溢れる。本当、バカで、男前で、――好きだ。
先程萎れた右手をそっとそいつの左手に重ねれば、自然と指が絡まった。「A」不意に呼ばれた自らの名は、今日この日が特別な日だからか、それか、その出処のせいか。多分後者のせいで私の胸をときめかせる。
先を促すように総悟と目を合わせ、その口が音を作るのを待っていると。
「――他の誰でもなく、俺がお前ェを幸せにすらァ」
俺以外にんなことできる奴、いねェってわかっちまったからな、なんて。
(……あぁもう、)
嬉しくて涙が出そうだった。だって、その通りだったから。私の幸せは、ここにしかないから。
「――私だって、総悟を幸せにするよ。絶対」
「ヘェ、そりゃ楽しみでィ」
交わされた誓いに証人はいないけれど、月明かりの下のそれは、きっと何よりも確かで強力で、変わりない誓いなのだと私は思うのである。
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文 - 何年経っても色褪せなくてついまた読み返してしまいます。ふっと笑えるところもあれば切なくなるところもあって、最後には幸せな気持ちになれて本当に胸がいっぱいになる作品です。 (12月2日 23時) (レス) id: 83faa383a3 (このIDを非表示/違反報告)
リィ(プロフ) - どんな幸せな終わり方だよォォォォォォ!!!!滅多に泣かないはずのボクが号泣するとかァ!!!めっちゃ面白かったです!神作品だぁ… (2022年5月18日 11時) (レス) @page40 id: a9f70234e2 (このIDを非表示/違反報告)
たろ。(プロフ) - 序盤めちゃくちゃニヤニヤしながら見てたけど後半号泣してしまった…最高… (2022年5月15日 0時) (レス) @page40 id: ba071d904f (このIDを非表示/違反報告)
ナナナ(プロフ) - なんですかこの神作品は。。。2時間かけて一気に読んでしまいました。。笑って泣ける、本当に本当に最高の作品でした。ありがとうございました、( ; ; ) (2022年4月26日 2時) (レス) @page40 id: 6431d8432b (このIDを非表示/違反報告)
なかむら(プロフ) - ぺさん» 遅レスすみません汗 書簡集、恋文の技術です!!森見さん大好きで……!同士の方と巡り合えてとても嬉しいです!もちろんこちらの夢小説はあちらの足元にも及びませんが(笑)、楽しんで頂けていたら幸いです! (2021年2月25日 21時) (レス) id: cefa07e7cb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:中村 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nakamura_/
作成日時:2017年3月4日 15時