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「俺ァお前を、不幸にしに来た」
「……不幸?」
――俺は惚れた女の普通の幸せというやつをこの手で潰そうとしている。常に血の匂いがつきまとう場所へ、誘おうとしている。
「もしお前ェがこの手取るってんなら、世間一般の幸せなんつーもんは2度と手に入らねェと思え。…なんつっても身の回りの奴がいつ死ぬかもわからねェ環境でィ」
選ぶ言葉は敢えてキツイものにした。――手を取ってしまえば引き返せないことは――もう二度と、自分にそれを手放す気がなくなってしまうことは目に見えていたのだ。
そいつの普通の幸せを願う以上に、側に置いておきたいと思っちまうだろうことも。
だから、迷えばいいと思った。あわよくばこの手を振り払えと。……だが。
「……世間で言う幸せなんて、最初っから望んじゃいないもの」
きっとこの急展開への動揺は収まっていないくせに、昔から変わらない真っ直ぐな瞳でこちらを射抜くA。それに視線を合わせて、続く言葉を待つ。
「私が望む幸せってね、手紙一枚で手に入るようなものなの」
そいつの視線はゆらりと宙へ向けられた。口元には笑みが浮かんでおり――遠くを見るように、どこか幸せそうに、声が続けられる。
「毎月1枚でも馬鹿みたいに嬉しくなって、何度も何度も読み返して。些細だけど、かけがえがなくって」
それに代わるものなんて、この世にひとつもない。言ったそいつの瞳がまた俺の元へと帰ってきた。
「――私の幸せって、総悟にしか生み出せないものみたい」
それはそれは優しげな、愛おしげな微笑みがAに浮かぶ。…いつの間にこんな表情できるようになっちまったんだか、というのは俺のちいさな現実逃避だろう。――それはあまりにも綺麗だったから。
こちらの微かな動揺に気づいているのか、いないのか。やはりその笑みを消し去らぬまま、目の前の口が開かれ。
「だから、もしも総悟の隣にいることが世間で不幸だなんて謳われてるなら」
Aは、ふわりと微笑んだ。
「――総悟」
「……何でィ」
「私を、不幸にしてください」
そして、幸せに溺れさせて?
付け足された言葉と重ねられたちいさな手に、もう俺が迷う余地などなかった。未だ尻餅をついているそいつを思い切り引き寄せ、両の腕に収める。
先ほどの大人びた笑みが想像もつかないほど真っ赤に染まったAは、これでもかというほどガチゴチだった。「ガキ」笑ってみれば「同い年、だし」と。
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文 - 何年経っても色褪せなくてついまた読み返してしまいます。ふっと笑えるところもあれば切なくなるところもあって、最後には幸せな気持ちになれて本当に胸がいっぱいになる作品です。 (12月2日 23時) (レス) id: 83faa383a3 (このIDを非表示/違反報告)
リィ(プロフ) - どんな幸せな終わり方だよォォォォォォ!!!!滅多に泣かないはずのボクが号泣するとかァ!!!めっちゃ面白かったです!神作品だぁ… (2022年5月18日 11時) (レス) @page40 id: a9f70234e2 (このIDを非表示/違反報告)
たろ。(プロフ) - 序盤めちゃくちゃニヤニヤしながら見てたけど後半号泣してしまった…最高… (2022年5月15日 0時) (レス) @page40 id: ba071d904f (このIDを非表示/違反報告)
ナナナ(プロフ) - なんですかこの神作品は。。。2時間かけて一気に読んでしまいました。。笑って泣ける、本当に本当に最高の作品でした。ありがとうございました、( ; ; ) (2022年4月26日 2時) (レス) @page40 id: 6431d8432b (このIDを非表示/違反報告)
なかむら(プロフ) - ぺさん» 遅レスすみません汗 書簡集、恋文の技術です!!森見さん大好きで……!同士の方と巡り合えてとても嬉しいです!もちろんこちらの夢小説はあちらの足元にも及びませんが(笑)、楽しんで頂けていたら幸いです! (2021年2月25日 21時) (レス) id: cefa07e7cb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:中村 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nakamura_/
作成日時:2017年3月4日 15時