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――――――
俺がそれを行動へ移したのは、返信を投函して少しした頃のことだった。
奴がそう望むならこちらへ連れてくることを近藤さんにも話をつけ、いつぶりか踏みしめた武州の地。雪がちらつくそこには、これでもかというほど思い出が詰まっている。…が。
(久しぶりな気もしねーな。)
それはもしかしたら、頻繁に奴からこっちの様子を聞いていたからかもしれない。雪の積もり具合も寂れ具合も、やはり予想通りであった。
そんな中、見慣れた道を歩く俺の足に迷いはない。段々近づくのはそいつがいるであろう一軒家だ。昔は俺もよく遊びに行ったもんだと懐かしみながら、しかしそこで一人過ごしているそいつの心情を思い、溜息。
(…心配なんざ柄でもねーことしちまって。)
いつから俺ァドSから聖人に転職したんだか。気持ちが悪いことこの上ない。
らしくねェ自分を振り切るように足を進めた。とうとう目の前に迫ったそれへ、微塵の遠慮もなく足を踏み入れる。一声もかけず玄関の戸を開けば家の奥でガタゴトと音がした。…つーか鍵もかけてねェたァ。
職業柄人の気配を察知することには慣れている。夏ぶりのその気配の方へ迷いなく近づき――…そして。
「―――よー、久しぶりじゃねーか」
「…へ……っ、」
ある一室の襖を開けばちょうど立ち上がり右往左往していたらしきそいつに鉢合わせた。……この間会ったのが四年ぶりほどか。未だどこか見慣れない大人びたそいつの目は大きく見開かれており。
「…そ……ッ!?」
どうにも驚きすぎたあまり腰を抜かしたらしかった。尻餅をつくそいつ――Aからしたら、この状況は予想外を極めているんだろう。
しかし、目の前のその動揺加減を汲んでやるほどの優しさが俺にある訳もなく。
「――攫いに来た」
重ねるように言えばAが息を呑んだ。ようやく言葉を発するという行為を思い出したのか「どうしてここに」とまだ少しだけ混乱しているような声がこの部屋を泳ぐ。
「どうしてもこうしても、手紙に書いただろーが」
「手紙?」
「“貰いに行く”」
「――な、」
どこぞの頑固女がアホみてーなこと抜かしてやがるんでつい来ちまった。付け足すも、いつもとは違い反論は返ってこない。そこまでの余裕はないんだろう。
まァ俺も既にここまで来ちまっている以上引き返すことはできねェ。ならばさっさと済ませちまおうと腹を決め、右手をそいつへ差し出した。
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文 - 何年経っても色褪せなくてついまた読み返してしまいます。ふっと笑えるところもあれば切なくなるところもあって、最後には幸せな気持ちになれて本当に胸がいっぱいになる作品です。 (12月2日 23時) (レス) id: 83faa383a3 (このIDを非表示/違反報告)
リィ(プロフ) - どんな幸せな終わり方だよォォォォォォ!!!!滅多に泣かないはずのボクが号泣するとかァ!!!めっちゃ面白かったです!神作品だぁ… (2022年5月18日 11時) (レス) @page40 id: a9f70234e2 (このIDを非表示/違反報告)
たろ。(プロフ) - 序盤めちゃくちゃニヤニヤしながら見てたけど後半号泣してしまった…最高… (2022年5月15日 0時) (レス) @page40 id: ba071d904f (このIDを非表示/違反報告)
ナナナ(プロフ) - なんですかこの神作品は。。。2時間かけて一気に読んでしまいました。。笑って泣ける、本当に本当に最高の作品でした。ありがとうございました、( ; ; ) (2022年4月26日 2時) (レス) @page40 id: 6431d8432b (このIDを非表示/違反報告)
なかむら(プロフ) - ぺさん» 遅レスすみません汗 書簡集、恋文の技術です!!森見さん大好きで……!同士の方と巡り合えてとても嬉しいです!もちろんこちらの夢小説はあちらの足元にも及びませんが(笑)、楽しんで頂けていたら幸いです! (2021年2月25日 21時) (レス) id: cefa07e7cb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:中村 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nakamura_/
作成日時:2017年3月4日 15時