手が導く先 ページ31
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「――攫いにきた」
例えるならその手は、そいつの人生を幸せとは正反対の場所へ導くようなものだった。
*
「――どうかしたか」
とある月夜の、縁側。12月ということもあり寒さが猛威を奮うようになってきている中、ひとり胡座をかいていた俺を不審に思ったのか、背後からかけられたのはそんな声だった。
その主というのは、考えるまでもなく某ニコチンクソ野郎であり。
「べっつにどうもしてやせんよ、足滑らせて死ね土方」
「どうもしてねェ奴がんなツラしてるわけねーだろ。あと誰がんなマヌケな死に方するか」
「あり、マヌケじゃなきゃ死んでくれるんですかィ、そりゃいいや」
「話逸らしてんじゃねェよ」
ったく、とかなんとかぼやきながら煙草へ火をつける土方さん。どうにもここへ留まる気らしく。
そいつの紫煙が冬の澄んだ空気を汚していくのをぼんやり見つめる。寒さのせいかいつもより近く感じられる月へ視線を向けながら、ゆっくり口を開き。
「――どうにも、俺ァ相当なアホらしい」
「どうした、漸く自覚したか」
「土方殺す。…ま、未練がましいといいやすか」
そこでそいつは色々と察したようだった。紫煙とともに、声も吐き出される。
「……Aか」
「てめーの中でまだ諦めがつかなくて困らァ」
頭に浮かぶのは今日届いた一通の手紙である。山崎が俺の元へ運んできたそれには『不器用ヤローへ』と宛名が書かれていた。……問題は、その中身だというか。
「心に決めたどこぞの誰かがいるから、縁談は絶対に受けねェらしい」
「……わかってんだろ、お前」
「鈍感気取る気はありやせん」
長らく文通をしているそいつがこちらへ想いを寄せていることなどとうの昔に知っていた。
自らの想いがそいつに向いていることも、そりゃもう昔から知っている。――しかし。
「まさかアンタの気持ちを理解できちまう日が来るたァ」
どうにも、だからといって奴を手に入れようと動くことはできなかった。……平和な世界を取り上げちまうようで。
腰に銀色のそれをぶら下げてちまっている以上、俺たちの世界に平和なんつーもんはない。命の保証も、ない。
ただ普通の娘として生きていけるはずのそいつを、こっちに引き込んで良いのか――否、良くない。そんな思いから俺はこの数年ずっと動けずにいるのである。…が。
……だが――それが本当に最善なのか、わからなくなるようなことが起こっちまったのだ。
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文 - 何年経っても色褪せなくてついまた読み返してしまいます。ふっと笑えるところもあれば切なくなるところもあって、最後には幸せな気持ちになれて本当に胸がいっぱいになる作品です。 (12月2日 23時) (レス) id: 83faa383a3 (このIDを非表示/違反報告)
リィ(プロフ) - どんな幸せな終わり方だよォォォォォォ!!!!滅多に泣かないはずのボクが号泣するとかァ!!!めっちゃ面白かったです!神作品だぁ… (2022年5月18日 11時) (レス) @page40 id: a9f70234e2 (このIDを非表示/違反報告)
たろ。(プロフ) - 序盤めちゃくちゃニヤニヤしながら見てたけど後半号泣してしまった…最高… (2022年5月15日 0時) (レス) @page40 id: ba071d904f (このIDを非表示/違反報告)
ナナナ(プロフ) - なんですかこの神作品は。。。2時間かけて一気に読んでしまいました。。笑って泣ける、本当に本当に最高の作品でした。ありがとうございました、( ; ; ) (2022年4月26日 2時) (レス) @page40 id: 6431d8432b (このIDを非表示/違反報告)
なかむら(プロフ) - ぺさん» 遅レスすみません汗 書簡集、恋文の技術です!!森見さん大好きで……!同士の方と巡り合えてとても嬉しいです!もちろんこちらの夢小説はあちらの足元にも及びませんが(笑)、楽しんで頂けていたら幸いです! (2021年2月25日 21時) (レス) id: cefa07e7cb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:中村 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nakamura_/
作成日時:2017年3月4日 15時