布団 ページ30
◇
「…杏寿郎さん。今晩一緒に寝ませんか」
「っな」
久しぶりの自室の安心感に浸り、もう寝ようかと灯りを消そうとした時、俺の寝室に枕を持って訪れたAは、照れくさそうに俺の元へ寄る。
「…駄目かしら?」
「っいや!そういうことではなくて!」
眉を下げて不安そうな顔をするAは、おねだりするように俺の手をするりと撫でる。
そんな可愛らしいことをされては、またあの時のように襲いかねない。
そのため焦ってAから距離を取ろうとすると、そんな俺をよそに、Aは俺が帰れと言わないのを了承と取ったのか、嬉しそうに布団に足を入れてくる。
同じ布団に入り、満足そうに笑うA。
そんなAの表情に弱い俺は、ここまで愛らしい反応をされては断ることが出来ず、渋々自分も布団に入る。
「杏寿郎」
「…ん?」
寒いのか、朝のように足を絡めてくるAに、俺は余計なことを考えないよう、心を制御しようとAに背を向けて目を瞑る。
Aは、2人きりの時になると必ず俺を呼び捨てで呼んでくるのだが、こんな状態で言われてしまっては、誘われているんじゃないかなんて考えてしまう。
「杏寿郎はすぐ子ども欲しい?」
「っこ、!!」
驚いて俺が体を起こすと、Aはそんな俺に少し笑いを零して、寝た状態のまま俺を見上げる。
「…私ね、あの日の夜
杏寿郎が嫌で泣いたんじゃないの」
「…!」
結婚初夜、もちろんお互い同意の上で行為に至った訳だが、Aが急に涙を零すものだから、怖がらせてしまったと思って、俺は急いで中断した。
「ただ、私なんかが母親になれるのか
不安になったの」
Aはまだ十七。
そんな彼女の心境に気づけず、一人で考えさせてしまっていた事に罪悪感が湧く。
Aは十六まではしっかり教育を受けており、成績も優秀で将来を期待されていたと、Aの兄上達から聞いたことがあった。
しかし、俺が突然、結婚を申し出たせいか、Aは俺に相談もせずに退学をしてしまった。
これらの出来事から見ても、彼女は肝心な話は溜め込む癖があるらしい。
「…私、
瑠火さんみたいなお母さんになりたいの」
そうぽつりと悲しそうに呟くAに、君は本当に母上が好きだなと笑いかければ、少しだけ笑って頷いた。
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作者名:西川あや x他1人 | 作成日時:2020年10月31日 13時