朝 ページ29
◇
「む?Aはまだか」
結婚生活数ヶ月目。
一段と寒い日の朝、八日間の任務が終わって久しぶりに帰ってきた俺は、朝の早い時間に風呂に入り、少し台所に寄ってみる。
「あ、おはようございます!兄上!」
そう嬉しそうに微笑む千寿郎に挨拶をし、俺は1人で朝食の準備をしているなんて珍しいなと、不思議に思って辺りを見渡す。
すると、そんな俺に対してクスッと笑いを零した千寿郎は、Aは寒い日の朝はなかなか起きられないのだと教えてくれた。
「兄上、起こしに行ってあげたらどうですか」
「うむ、そうだな!」
Aは昔から寝起きは良くないが、寒い日は一段と布団から出ようとしない。
今では理想の淑女として成長し、言葉遣いや態度には昔の面影はもうほとんどないが、寝起きの悪さは変わらないのだなと笑ってしまう。
「失礼するぞ!」
「…」
何も返事をしないAに、仕方なく部屋に入れば、Aは身を丸めるようにして、すっぽり布団に入っている。
「A、起きろ」
「…ん」
布団の上から優しく揺すってやれば、少しだけ腕を出して、白く柔らかな手が俺の手に重なる。
「…杏寿郎も、一緒に」
「ん゛ん゛」
そう寝ぼけたように俺の腕を引くAに、されるがまま布団に入り込めば、嬉しそうに口元を緩めて俺を抱きしめる。
「…ふふっおかえりなさい」
この数日間、毎晩あなたの帰りを待っていたと、瞼を閉じながら、俺の手を自分の頬に添えるAは、いつにもなく積極的だ。
「杏寿郎は暖かいね」
そう小さく笑いを零して、俺の胸に顔を埋めるAは、今までの任務の疲れを吹き飛ばしてしまうほど、とてもとても愛らしかった。
「A、これ以上は…」
絡めるように回されたAの足に、自然と身体が密着する。
柔らかくて、動いてしまったら壊れてしまいそうな程細い腰に手を添えて少し距離を取れば、Aは不服そうに俺を見た。
「…冷たいな」
小さい頃は冬でも外を元気に走り回っていたのに、今では布団の中にいてもAの手はひんやりとしている。
俺の顔をじっと見つめるAの顔を少し撫で、可愛らしい桃色の唇をそっとなぞる。
「…A「兄上!姉上は起きられましたか?」
そうひょっこり顔を出す千寿郎に、拒まれて以来のやらしい気持ちになりかけていた俺は、鬼と戦う時並みの速さで布団から飛び出た。
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作者名:西川あや x他1人 | 作成日時:2020年10月31日 13時