逢瀬 ページ19
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…これは、無意識か。
小さな手で俺の手を握り、前を歩くAに思わずそんな言葉を口に出してしまうと、Aはわざわざ振り向いて、俺との距離をずいっと詰める。
「ごめんなさい、今なんとおっしゃいましたか?」
俺の肩に手を置き、一生懸命背伸びをして話しかけてくるその様は、まさに俺の心臓を鷲掴みにし、Aは更に追い打ちをかけるように、俺の耳元に手を添えて、人混みで聞き取りずらいと至近距離で話しかけてくる。
「…っなんでもない!」
この時の俺は、恐らく茹でタコより赤かっただろう。
◇
「このさつまいものワッフルにしましょうか」
「む、君もそれでいいのか?」
店に入って、楽しそうにお品書きを見せてくるAは、俺の好物を覚えていたのか、さつまいもの洋菓子を勧めてくる。
「ふふっ実は、私もさつまいも大好きなの」
誰かさんのせいで、味覚まで似てしまったのかもと、好戦的に笑みを浮かべるAに、また胸が締め付けられる。
雪のように白い肌。
真っ直ぐ俺を見つめる深黒の瞳。
花が咲いたように笑う、その表情も。
全て俺の物にしてしまいたいと、胸からジワジワ熱いものが溢れ出す。
「君は、この数年間何をしていた?」
「どんな人と知り合って、どんな生活をしていた?」
「…教えてくれ、俺が知らない君の話を」
そう一気に質問攻めにすると、キョトンとした顔をした後、Aは嬉しそうに笑いを零した。
◇
「少し御手洗に行ってきますね」
料理も食べ終わり、紅茶を飲み終えると、会計を済ませる前に小さな鞄を持って席を立つAは、俺に一言そう言って厠へ向かう。
昔と比べものにならないほど、Aは女性らしくなったが、先程聞いた話の中には、色恋の話は一切存在しなかった。
Aに好きな男がいないのだろうか。
…もし居たとしても俺には関係ない話だが、Aを守れるくらい強くなくては、任せることは出来ない。
そんなことを考えながら、窓の外で行き交う人々を呑気に眺めていると、知らない数人の男に手を引かれるAの姿が視界の隅に映り込む。
「…は、」
一瞬停止する思考。
そんな中、必死に手を振り払おうとするAの怯えた顔を見て、俺は瞬時に机に金を置いて走り出した。
◇
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作者名:西川あや x他1人 | 作成日時:2020年10月31日 13時