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虫「なんて?」

『ん、撮影のこと』


軽く濁したけれど、彼は何も疑わずそうなんだと聞き流してくれた。


虫「としみつも最近、さやりんと仲良くなったよねぇ」

『そうだね。ご飯もよく行くし』

虫「家にも遊びに行ってるんでしょ?大丈夫?」

『大丈夫ってなに(笑) 』

虫「僕もう、りょうとしのことは信じてないから」


ふんぞり返っている姿が可笑しくて、暫くお腹を抱えて笑う。


『恋愛して欲しいのかして欲しくないのかどっちなの(笑) 』

虫「さやりん主導の恋愛は応援するけど、それ以外は全部敵」

『敵?!やば(笑) 』


ひとしきり笑ってから、私は出来る限りアイドルの顔で微笑んだ。


『ありがとね』

虫「えっ、なにが」

『いつも、私の味方で居てくれて』


ざわくんが口元に手を当てる。


『今日の話も、あんまり納得してないけど認めてくれたでしょ?だからありがとう』

虫「…………ごめん、泣いていい?」

『泣くの?(笑) いいけど』


ざわくんの感情はいつも温度が鮮やかだ。私の一言で満面の笑みにもくしゃくしゃの泣き顔にもなってしまう。

本当に、私を愛してくれている人の温度。

数年前には、目の前に沢山あるのが当たり前だった温度。


『もうアイドルじゃないけど、今も味方で居てくれる人が居るって本当に嬉しいことだから』

虫「待って。本当にどうしたの?普段言わないじゃんそんなの。…………引っ越すとか?」

『もう引っ越したよ』

虫「そうだった……じゃあ、もう会えなくなるとか?いや…………結婚?結婚するの?」


大騒ぎを始めそうになっているのを見て、苦笑いで否定する。


『言いたくなっただけ。りょうくんとの一件で、定期的に深いこと話しとかないとダメだなって痛感したから』

虫「ホントにそれだけ?」

『ホントにそれだけ』


眼鏡越しに視線を合わせると、秒速で逸らされた。


虫「ダメだ。過剰ファンサすぎる」

『まだファンサとか言ってんの?(笑) 』

虫「まだとか無いよ」


不意に固くなった声色に耳を傾ける。真摯なそれは、私の心を揺らした。


虫「僕は……僕達は、永遠にさやりんのファンで、永遠にさやりんの味方だから」

『ありがと(笑) 』


私が礼を言うなり、ざわくんはゴンと音を立てて机に突っ伏した。


虫「ダメだ。今日のさやりん可愛すぎる。僕しか見てないのが勿体無い」

『なんそれ』


また訳の分からないことを言い出した。頬杖をついて眺めつつ笑っていると、なんだか幸せを感じた。

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作者名:蚕虫 | 作成日時:2023年10月30日 21時

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