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虫「なら……いいや」

『うん。ありがとう』


届いたビールを飲んで、少し舌が解れたんだろう。彼は饒舌に語り出した。


虫「さやりん、こんなに可愛くてこんなに性格も良いのに、ずーっと彼氏居ないっぽいからさ」

『どうかなぁ?ざわくんに言ってないだけかもよ?』

虫「それならそれでいいんだけどね(笑) 」


まあ、バレてるだろうな。これだけずっと一緒に居るんだから。


虫「りょうくんは寂しいだろうね」

『どうだろ。案外私が出て行ってからの方が、女の子だけ集めた酒池肉林パーティーとかやってそうだけど』

虫「ありそうだなぁ(笑) てつやとの同居はいつまで?」

『いつまでとかは無いよ。多分ずっと』


眉を顰めるざわくんに笑う。


『でも前とは違うから。一応私は一人暮らしみたいなものだし』

虫「ホント仲良いね。僕は幼馴染居ないから分かんないけど、普通アラサーにもなって同じマンションには住まないよ」

『住宅手当の代わりに社宅借りてる感覚だと思って』

虫「いやそれにしても……あ、どうぞ?」


不意に携帯が鳴った。ごめんねと画面を見ると。


『としみつくん?なんだろ』

虫「え、としみつ?」

『うん。ちょっと出るね』

虫「どうぞどうぞ。あ、ここで話してもいいよ。別に聞かんし」

『ありがとう』


きっと業務連絡だろう。そう思って通話ボタンをタップした。


と「もしもし」


聞こえてきた声は硬い。


『もしもし?どうしたの?今、ざわくんも近くに居るんだけど』

と「虫さん?」


少し剣呑な響きを察して、私はやっぱり出るねと個室の扉に手をかけた。


『………ん、もう大丈夫。誰も居ないよ。何かあった?』


外に出て声をかけると、としみつくんはごめんと謝った。


と「いや、ちょっと電話じゃ微妙なこと、話したくて」

『来る?』

と「大丈夫。もう家に居るもんだと思って電話しちゃっただけだから。邪魔してごめん」

『それはいいよ。急なんだよね?一応ざわくんともラーメン行ったら解散するから、11時とかには家に帰ってると思うけど』

と「…………」


そんな時間に振り回していいものかというような葛藤が見えて、私は苦笑した。


『としみつくん家に行こうか。ざわくんと別のタクシー乗れば、バレないと思うよ』

と「いや、俺が浅谷さん家に……ってその方が嫌か」

『嫌とかはないけど、引っ越したてだし何も出せないかも』


熟考したとしみつくんは、「じゃあ待ってる」と呟いて電話を切った。

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作者名:蚕虫 | 作成日時:2023年10月30日 21時

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