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と「見て。星」
『綺麗だね』
星かあ。たしかに空には星屑と言うのが相応しいほどの満天の星が広がっていた。
永遠とそこに留まる雪のようにも見える。無数に広がる宇宙の重さが私の体を押し潰してくる感覚がして、息が苦しくなった。
『死んだらさ、』
と「え?」
突然の話題に首を傾げつつ、としみつくんは相槌をくれた。
と「死んだら?」
『死んだら……お星さまになるって本当なのかな』
少し前を歩いていたとしみつくんの歩調が緩くなって、私の隣に並ぶ。
と「すばるさん?」
『そう……ってなんか、としみつくんがお兄ちゃんのことすばるって呼んでるの変な感じだね』
と「あ、ダメだった?」
『ううん。むしろ呼んであげて。最近呼ばれなくなって寂しいだろうし』
もう10年弱だ。風化しても仕方ない年月が経っていた。
『もしお星さまになってるなら、どれがお兄ちゃんなのか分からない私、兄不幸者すぎるなって』
別に星になんかなってないって知ってるけど。
火の海に呑まれていく棺も眺めてたし。
でも、それでも。
『星になったって信じれるのって、ちゃんと死んだ人と信頼しあえてた人だけだよね』
ポロリと口から飛び出たのは、重くて予想外もしていない言葉だった。
深夜の山の鳥かごのような空気が、私をセンチメンタルにしたのかもしれない。
『なーんか柄にも無いこと言っちゃった』
軽く笑い飛ばすと、としみつくんはキュッと唇を噛み締めた。
と「全部なんじゃないの」
『ん?』
鋭い眼が私を射抜く。
と「あの星、全部。すばるさんなんじゃないの」
『…………なるほど?』
新しい解釈に笑いが込み上げてくる。
『たしかにそれなら、どれがお兄ちゃんか分かんないのも当然か』
と「そうだよ。浅谷さんにとったら、あの星は全部すばるさんだし」
『としみつくんにとったら?』
と「俺にとったら……実家の死んだ犬かな」
なるほど。
見上げてみると、いつの間にか宇宙の重みは消えていた。
『としみつくん』
と「なに?俺また変なこと言った?」
『としみつくんは多分、心理カウンセラーとか兼業するべきだと思う』
本気で言ったのに、彼は声を上げて笑った。
と「ビックリした。なに急に」
『ホントに思ってるんだって。前も、お兄ちゃんと私が似てるとか……私じゃ気付かないこと、見抜いてくれたでしょ?』
薄く微笑んだ彼は、襟元に顔を埋めた。
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作者名:蚕虫 | 作成日時:2023年10月30日 21時