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と「……ここ」
連れて来られたのは、創作料理のお店らしかった。
割とカジュアルで、だけど高級感もある。ギリギリジャージで許されるかな?くらいの店だ。
『ホントにジャージで来ると思ってたんだ』
と「いや、そりゃそうでしょ。むしろ雑誌撮影とかじゃなく、服着てる浅谷さんなんか久々に見たよ?」
『そう?最近はりょうくんに言われてマトモな服も着てるよ?』
扉を開けてもらい、中に入る。店内も和モダンな雰囲気で、女の子が好みそうな色合いだった。
と「予約の鈴木です」
奥の個室に進みながら、小さくとしみつくんの腕を引く。
と「……なに?」
『カップルだらけ』
と「クリスマスだもん」
『誰も、私たちに気付いてない』
客層は若めなのに、誰も私たちなんて見ていなかった。
『すごいね、クリスマスって』
何故かとしみつくんは、目を逸らした。
と「俺らも、カップルに見えてるかもね」
『えー、ホント?なら腕でも組んどく?』
と「いや!大丈夫!」
コートを渡して、示された上座に座った。本当にどこまでも卒が無い人だ。りょうくんもだけど、としみつくんもこういうマナーを大切にするタイプのように思う。
『てっちゃんとしばゆーにも見習って欲しいよ』
と「ん?」
『ううん』
パッと顔を上げると、真ん前にとしみつくんの顔があって笑ってしまった。
と「なに。なんでわらうの(笑) 」
『いや(笑) なんか真向かいに座るの初めてじゃない?』
と「それで笑うの?そんな俺の顔、変?」
『大丈夫大丈夫。かっこいいって』
顔が変と言うより、なんだか違和感が可笑しい感じだ。
なんとなく、横顔ばかり見てきた気がするから。
と「何飲む?」
『ミネラルウォーター』
と「ん」
注文してくれる顔を見ているだけでも楽しい。余程私がニヤついていたんだろうか。店員さんが出ていくなり、不服そうに彼は私を横目で見つめた。
と「笑いすぎ」
『ごめんて(笑) 楽しくて』
と「ホント?楽しい?」
『うん。楽しい。去年も楽しかったけど、今年も楽しい。初めてだよ、クリスマスにちゃんとクリスマスらしい出かけ方するの』
と「なら、よかった」
としみつくんの相手がドタキャンしてくれてよかった。とさえ思う。
いや、としみつくんにとったら何も良くないんだろうけど、でも。
『誘ってくれてありがとう』
と「うん」
少なくとも、私はとても良い気分だった。
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作者名:蚕虫 | 作成日時:2023年10月23日 10時