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年末年始は、時間が過ぎるのが早い。

気付けばもうクリスマスイブで、りょうくんは昼間から意気揚々と出かけて行ってしまった。

としみつくんとの約束は、17時。それまでにこの猫っ毛をどうにかしなくちゃいけない。

クリスマスに予定が出来たと言ったら、スタイリストさんに押し付けられた服を着込み、軽くメイクをしていく。

自メイクなんて久々だ。それこそ、この前のコンサート以来していないかもしれない。

でも、一応としみつくんのクリスマスのお相手になる訳だし、ドタキャンした女の子の代わりをある程度は勤めないと、奢ってもらうには役不足だ。

……まあ、ホテルには行けないわけだけど。


ほんとにいいのかなぁ、と思う。聖夜を聖夜らしく過ごしたいタイプのはずなのに、友達の私なんかを高級レストランに連れて行って、それだけで終わるなんて。

唯一の救いは、彼が私の容姿を気に入っているらしい事だろうか。

だからせめて、見た目だけでも彼好みにして行かないと。

バキバキと肩を鳴らし、瞼にラメを乗せていく。

人形みたいになっていく顔面の前で、気に入ってくれるかなぁなんて、殊勝なことを思った。







約束の時間はすぐに訪れた。

キッチリ17時。チャイムが鳴って、画面に俯きがちなとしみつくんが映る。

ロングコートを着ている所を見ると、やっぱりある程度の高級レストランなんだろう。


『はーい。待ってて、すぐ下りる』

と「ううん。迎え行く。鍵開けて?」

『分かった。部屋の鍵も開けとくね』


念の為、だろう。一人の時間を作らないようにしてくれているのが分かる。

バッグとスマホを手に取り、ファーの付いたコートを着て、戸締りを確認していたところでガチャリと扉が開いた。


『あ、おはよ〜。メリークリスマス』


パタパタと玄関に向かうと、彼はいきなりしゃがんだ。


『どうしたの?トイレ?』


覗き込んだとしみつくんの瞳は、ビックリするくらい真ん丸で。


と「…………めちゃくちゃ可愛いじゃん。なんで?」

『えっ?クリスマスだし』

と「なにそれ。クリスマス最高だな」


上目遣いにそろりと見つめられたから、ピースをしてみる。案の定、再び顔は伏せられた。


と「ほんとに可愛い。絶対、いつものジャージだと思っとったのに」

『さすがにそこまでTPO弁えてないことないからね?』


行こうと肩を叩くと、彼はのそりと立ち上がった。その耳が真っ赤で、あぁ、頑張ってみて良かったなと心から思った。

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作者名:蚕虫 | 作成日時:2023年10月23日 10時

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