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と「そういえばさぁ、」
『ん?』
カイロの話に満足したのか、不意にとしみつくんは話題を変えた。
と「クリスマス、ホントに一人なの?」
『一人だよ』
と「てつやの前だから、秘密にしてるとかじゃなくて?」
『うん…………あ!またピザパーティーする?』
去年のアレは楽しかった。思いがけず、ひとりぼっちを避けられたのが嬉しくて、普段は飲まないシャンパンまで開けちゃって、としみつくんには酷いことをしちゃったらしいけれど。
私の問いかけに彼は首を振って、人差し指で何度もハンドルを叩いた。
『ん?』
と「あー……今、彼氏とか好きな人とかは、居らんよね?」
『うん』
ぱち、ぱち。レザーと指の当たる音が、信号待ちの車内によく響く。
『…………えっ』
と「悟るの早いって」
困ったように笑うその顔は、多分私の予想が正解だと告げていた。
と「レストランとか、行きませんか。ちょっと良いとこ、予約してるから」
去年のてっちゃんのように、ドタキャンされたんだろう。
なんとなく、彼が私を神聖な存在のように扱っていることは知っていたから、誘われたのがまず驚きだった。
そっか、仲良くなると、色々と話すようになると、頼るようになると、こんなラッキーがあるんだ。
『私だとそのままホテルとか行けないけど、いいの?』
と「は、!?」
おぉ、赤くなった。最近めっきり童貞いじりも無くなったとしみつくんだけど、たまに私の前では純朴そうな反応を見せてくれるのが可愛い。
と「良いとかじゃないよ……俺、そんな手早そうに見える?」
『見える。てっちゃんとりょうくんとクラブでよく遊んでるし』
と「あー……れは違くて」
とは言うものの、大した言い訳も思いつかなかったんだろう。としみつくんは黙り込んでしまった。
『大丈夫だよ。そういう手早そうな男の人のが、楽でいいって子も居るらしいし』
と「慰めになっとらん」
金髪をくしゃくしゃ掻き混ぜて、としみつくんは深い溜息をついた。
と「なんか俺、全然締まらんね?」
『ん?いいんじゃない?としみつくんらしいし。それに、私は誕生日一人で迎えずに済みそうで嬉しい』
と「…………うん。それはもう、去年は祝えんかった分、盛大に祝うよ」
『まあ去年は自業自得なんだけどね』
と「そうだよ。今年は酒飲むの、てっぺん超えてからにしてよ?」
あ、温まってきた。カイロから離れた指先に血の温かみを感じて、私はぼんやりそこを眺めた。
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作者名:蚕虫 | 作成日時:2023年10月23日 10時