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『聞いたでしょ。私にどうして欲しい?って』
と「でもそれ、俺答えたよね?そのままでいいよって」
『え?それ、本心じゃないでしょ?』
と「え?」
『え?』
お互い眉を顰めて見つめ合う。
と「1回、整理しよう」
『うん』
と「浅谷さんが俺と距離置いたのって、しんどい時に俺が自分の意見押し付けたからだよね?」
『うん?』
と「え、違うの」
としみつくんは口元に手をやった。
『違うよ。自分の意見押し付けるって何?』
と「……いや俺、浅谷さんに頼られんのが寂しいってだけで、謝るなとか偉そうに言ったから」
『あ、そこ!?』
意外なところに引っかかっていてむしろこっちがビックリだ。
『別に押し付けられたって思ってないよ。としみつくんは謝られたくない人なんだなとしか思ってなかった』
ただ、気になるのが。
『それより、頼られないのが寂しいってなに?』
としみつくんが俯く。
と「俺、結構前よりは浅谷さんと仲良くなった自信あったから、」
『うん』
と「だってほら、クリスマスの日とかもピザ食べよって誘ってくれたり」
『うん』
と「のに……一番しんどい時は、全く頼ってくんないんだなって。謝られるばっかで、俺に期待なんか微塵もしてない感じで。それって、全然仲良くなれてねぇやんって」
たしかに、りょうくんの言っていた通りだった。としみつくんは、頼られるという事実に価値を見出す人らしい。
『知らなかった、そんなこと思ってたなんて。なんで謝られたくないの?って聞いた時も、濁したやん』
と「言えんよ、そんなの、俺のエゴだし」
ただ、ずっと想いをひた隠しにしていた理由は、りょうくんが言っていたような男のプライドじゃなくて。
『優しいね、としみつくん』
と「え?」
『変わらなくていいよって言ってくれたのも、それでか。なんかスッキリした』
と「優しくないって、俺。優しかったらあんな、浅谷さんを追い詰めるようなこと言わんもん」
後悔しているらしい背に触れると、驚く程に震えた。
『優しいよ。ありがとう。私の事、尊重してくれてたんだね』
顔が上がって、視線がぶつかる。泣きそうな顔に、思わず微笑んでしまった。
『私が距離置いてたのは、としみつくんのことが嫌になったとかじゃないよ。りょうくんにね、としみつくんはズケズケ言われるの嫌いだって聞いて、そればっかり気にしてたから』
本当に深刻なすれ違いだったんだな。苦笑と共に、私は私の話を始めた。
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作者名:蚕虫 | 作成日時:2023年10月23日 10時