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『ちょっと待とう』


今、なんて言った?


『彼氏?誰が?』

と「りょうが」

『誰の?』

と「浅谷さんの」

『いや、私とりょうくん、付き合ってないよ』


今度はとしみつくんの目が丸くなる番だった。


と「付き合っとらんの!?」

『付き合ってない……って動画で言ってると思うけど』

と「俺、多分その時居ないわ」


言われてみれば確かに、同居を報告したのは純喫茶の動画だ。としみつくんは居なかった。

しかもアレはサブチャンだから、としみつくんが見ていなくてもおかしい事じゃない。


と「俺からしたら、2人が急に一緒に来るようになって、なんか周りからそれとなく同棲みたいな言葉聞こえて」

『そりゃ勘違いするよね』


としみつくんの目が、私を射抜いた。


と「じゃあ、浅谷さんは」

『うん?』

と「誰とも付き合ってなくて」

『うん』

と「りょうにも家の話、してない……」

『そうだね』


何故か、としみつくんの背負っていた固い空気がどこかへ行った気がした。


と「よ……かった。俺、さっき夢中で手とか触っちゃったけど、りょうに悪いことしたなってずっと思ってて」


深い溜息は本当の安堵の色を濃く移している。


『もし付き合ってたとしても、アレが優しさ100%だって誰でも分かるから大丈夫だよ』

と「いや……まあうん」


へにゃりと笑った顔を見て、面食らった。


『なんか、としみつくんの笑顔、久しぶりだね』


言葉に出してから、ハッとする。刹那の笑顔がまた、引っ込んでしまったから。


と「え」

『最近ほら、私の家のことのせいで思い詰めさせてたでしょ?一応距離は置いてたけど、やっぱり色々考えさせちゃってるみたいだったから』

と「やっぱ、距離置いてた……?」


眉が下がって、彼の喉が鳴る音が聞こえた。


と「俺があんなこと言ったからやんね」


目に見えて落ち込んでいる彼は、きっと優しい人なんだろう。

見れば分かる。今日だって、往来から店内の私を見つけて一目散に駆けてきた彼の頬には、汗が光っていたから。


『あんまり良い話じゃないし、そりゃ咀嚼も時間かかるよ。整理着くまで待とうかと思ってたんだけど、どう?』

と「整理……?」

『前、聞いたやん。私にどうして欲しい?って。あの答え、決まった?』


あれ?なんかおかしい。

目の前のとしみつくんがどんどん怪訝な顔になっていく。


と「ごめん、何の話?」

『ん?』


やっぱり私たちは、相性が悪いのかもしれない。

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作者名:蚕虫 | 作成日時:2023年10月23日 10時

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