・ ページ22
・
『ちょっと待とう』
今、なんて言った?
『彼氏?誰が?』
と「りょうが」
『誰の?』
と「浅谷さんの」
『いや、私とりょうくん、付き合ってないよ』
今度はとしみつくんの目が丸くなる番だった。
と「付き合っとらんの!?」
『付き合ってない……って動画で言ってると思うけど』
と「俺、多分その時居ないわ」
言われてみれば確かに、同居を報告したのは純喫茶の動画だ。としみつくんは居なかった。
しかもアレはサブチャンだから、としみつくんが見ていなくてもおかしい事じゃない。
と「俺からしたら、2人が急に一緒に来るようになって、なんか周りからそれとなく同棲みたいな言葉聞こえて」
『そりゃ勘違いするよね』
としみつくんの目が、私を射抜いた。
と「じゃあ、浅谷さんは」
『うん?』
と「誰とも付き合ってなくて」
『うん』
と「りょうにも家の話、してない……」
『そうだね』
何故か、としみつくんの背負っていた固い空気がどこかへ行った気がした。
と「よ……かった。俺、さっき夢中で手とか触っちゃったけど、りょうに悪いことしたなってずっと思ってて」
深い溜息は本当の安堵の色を濃く移している。
『もし付き合ってたとしても、アレが優しさ100%だって誰でも分かるから大丈夫だよ』
と「いや……まあうん」
へにゃりと笑った顔を見て、面食らった。
『なんか、としみつくんの笑顔、久しぶりだね』
言葉に出してから、ハッとする。刹那の笑顔がまた、引っ込んでしまったから。
と「え」
『最近ほら、私の家のことのせいで思い詰めさせてたでしょ?一応距離は置いてたけど、やっぱり色々考えさせちゃってるみたいだったから』
と「やっぱ、距離置いてた……?」
眉が下がって、彼の喉が鳴る音が聞こえた。
と「俺があんなこと言ったからやんね」
目に見えて落ち込んでいる彼は、きっと優しい人なんだろう。
見れば分かる。今日だって、往来から店内の私を見つけて一目散に駆けてきた彼の頬には、汗が光っていたから。
『あんまり良い話じゃないし、そりゃ咀嚼も時間かかるよ。整理着くまで待とうかと思ってたんだけど、どう?』
と「整理……?」
『前、聞いたやん。私にどうして欲しい?って。あの答え、決まった?』
あれ?なんかおかしい。
目の前のとしみつくんがどんどん怪訝な顔になっていく。
と「ごめん、何の話?」
『ん?』
やっぱり私たちは、相性が悪いのかもしれない。
115人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:蚕虫 | 作成日時:2023年10月23日 10時