Idol 2 (ページ40)

今日:76 hit、昨日:98 hit、合計:16,026 hit

ゴミ箱シュートもうちょっとだけやりたいなページ40

・

『さすがに寒すぎるしカイロ買ってきていい？』

としみつくんのおかげで存外早く終わったからと、皆がゴミ箱シュートを続ける中、私はひっそり立ち上がった。今は固定3脚の方が逆に見やすいし、私はカメラの撤収くらいしか役に立たないだろう。

て「あ、現金無いしカードで払っとって」

『はーい』

いつも通りカバンごと拝借し、土手を登る。考えてみれば、1人でどこかに行くのは久々だった。

最近、買い物はいくとくんが担当するようになったから、私は本当にカメラマンばかり。

だから基本はてっちゃんと行動するし、デリヘルを呼ぶからとてっちゃんに家を追い出されても、帰る寸前のりょうくんだったりしばゆーだったりゆめまるくんだったりとご飯に行くのが常だった

コンビニまでぼんやり歩きながら、遠くなる皆の喧騒に耳をすませる。

なんだか、幸せだなぁと思った。

めちゃくちゃ曇ってるしめちゃくちゃ寒いけど。

6人が馬鹿やってるのを隣で見て、笑って、そして皆であの家に帰る日々。

美味しいご飯を食べて、眠りたいだけ眠って、好きなことを自由に出来る日々。

アイドルとして夢を見失った私を、今でも望んでくれる人が居て、その人たちのために歌うことが出来る場を設けてもらえて。

幸せすぎて怖いくらいだ。

なんて考えてしまってから、首を振った。

ダメだ、昔からお兄ちゃんに言われてたのに。

Aは基本ポジティブだけど、たまにする悪い妄想がだいたい現実になるからタチが悪いって。

幸せなら、幸せだと思う。それだけでいいはず。

というより、それ以外に無いでしょ。

かじかむ手を擦りつつ、駐車場を抜ける。

無駄に大きい駐車場だ。恐らく河川敷に用がない人達のものであろう車もたくさん止まっている。

それを見渡しつつ自分の軽を目指していると、不意に手を掴まれた。

『え？』

滅多にない事だ。私のファンには、そういうことをする人は少ないし。じゃあ……誰？

「あーあぁ、もう。やっと1人になりよった」

背中越しに聞こえた声に、体が金縛りにあった。

何度も聞き慣れた声だ。酒焼けした、質の悪い声。

息の仕方が少しずつ分からなくなっていく。

吸っているのに、肺に届かず酸素が出ていってしまう。

過呼吸に溺れる私の前に、手を掴んだ男が立ちはだかった。

「久しぶりやなぁ。A」

目の前の男は、死んだ父と同じ顔をしていた。