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よしはるにマグを渡し終え、私はてっちゃんの部屋に戻る。そしてドアノブに手をかけたところで、室内の声が聞こえた。いや、聞こえてしまった。
と「なんであの人居んの？」
て「言ってなかったっけ？」
と「言ってねぇがや。俺、帰るわ」
り「さすがに露骨すぎるって」
と「いや、無理。マジ無理」
おー……なるほど、コレは。溜息を超えてもはや嘆息が漏れる。ここまで徹底的に嫌われたのは久々だ。
今ここで突入なんてすればややこしい事になるのは目に見えてる。私はそんなの、望んでない。
そっとドアノブから手を離し、階下に向かった。
「あれ？A〜？お腹減った？」
てっちゃんママの優しさが染みる。
いや、まさかてっちゃんの友達に嫌われてしまうとは。
大人たちに嫌われるのには割と慣れてる。でも、同年代にあんな敵意を向けられたのは初めてに近い。それもそれで少し傷ついた。
『ママ〜！Aもよしはると同じの飲む！』
「ココア？A、甘いの苦手でしょ」
『でも飲みたいの！』
て「やめときん。どうせ半分残すのに」
後ろから聞き慣れた声が飛んできてビックリした。
『降りて来たの？』
て「聞いとったでしょ。さっきの」
なんでもない風にそう言われるからさらに驚く。
『なんで？』
て「ドアノブ。ちょっと動いとった」
『あー……ね、私帰る？』
尋ねてみると、目を丸くされた。
て「A、そんな気遣えるの？」
『喧嘩売った？』
て「いや、思うよね？」
「思ったね」
『ママまで？！』
ひどい親子だ。睨んでみせると、ママは笑顔でマグカップを渡してくれた。中には甘い香りを漂わせるココアがたっぷり入っている。
「何の話か分かんないけど、Aは気にしなくていいよ」
て「そうそう。ココア飲みたいなら飲めばいいし、残したいなら残せばいいやん」
『んー……ま、普段ならそうするんだけどね』
て「なら俺が残った分飲むし」
『いや、てっちゃん。ココアはもういいって。今は俊光くんの話』
ポンと大きな手が頭に乗った。
て「やっぱ変なとこアホだなぁ、A」
『てっちゃんよりは勉強出来る』
て「いや、それは無い。俺、高校は行ったもん」
『……ママ！』
「コラ、てっちゃん！A虐めんの！」
て「なんで俺が怒られんの？！」
吠えた後、てっちゃんはヘラリと笑った。
て「真相、教えてあげよっか」
『え？』
その口から出てきたのは、あまりにも馬鹿馬鹿しい真実だった。
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作者名：蚕虫 | 作成日時：2023年10月5日 19時
