【d!】ヘビースモーカーと嫌煙家【z/m】

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「最寄りここなんや？」

「はい。…お出かけですか？」

「今日は早く上がれたからなぁ。これから帰るんやけど」


最寄りがこの駅だってことなんて知ってる事じゃないか。なんなら家まで知ってるくせに。徹底してやがるなこんちくしょう。
目があった奥さんは人当たりのいい笑顔でお辞儀をしてくれる。ベビーカーに乗った赤ちゃんは心地好さそうに寝息を立てていた。


再度、お疲れ様でしたと頭を下げると、お疲れ〜と間延びした言葉と共に家族は去って行った。


「先輩顔広いんやなぁ、他の課の社員なんて俺わからんわ……て、まさか」


表には出してなかったつもりだったのに表情に出ていたのか、突然気まずそうな顔をするゾムくんに精一杯の笑顔で答える。


「そう、彼が元彼。まさかここに来て奥さんとお子さん見ちゃうとか…あはは」


あー、バカ笑えてないよバカ。


鼻の奥がツンとなり唇を噛み締めるとふわりと彼の匂いに包み込まれる。
視界が真っ暗になった瞬間はなんだかわからなかったが、案外冷静に、すぐに状況が飲み込めた。


だけど、突き飛ばす気は起きなかった。
悔しいけど無駄に心地よくなってしまったからだ。


「しんどかったら連絡してな。おやすみ先輩。気ぃつけてな」


頭のてっぺんにゾムくんの顔が寄せられて、優しい声で囁かれる。そしてすぐに彼は体を離し、私が改札を出るまで見守っていてくれた。

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