夏色の君は知っている

カレンダー ページ13

後少し。いや、まだ時間はある。でも待て、明日じゃねーかよ。は？明日？



上杉和典は柄にもなくそんなことを考えながら自室のカレンダーを見つめていた。


…正確には「睨みつけていた」という方が正しいのかもしれないということは黙っておこう。



7月10日


カレンダーや手帳には必要最低限の予定しか書かない。色を付けて目立たせる、なんて以ての外だ。
だから「夏祭り」の日もいつも通り何も飾らせてない。


…なのになんでだ。んでこんなにその日のマス目だけ色づいて見えんだよ。

もちろん立花と出かけるのは楽しみだ。そこは否定しない。だけど、んでこんなに緊張すんだよ。


……


あっーー！もうわっかんね。

考えるのも面倒になって考えるのをやめた。



あいつ何着てくんだろ。


浴衣？


いや、落ち着け俺。女子の夏祭りの服装事情なんて俺が知るかよ。



彩の浴衣姿をほんの少し想像してしまった上杉は慌ててそれを脳内から追い出した。



浴衣って着んのいつぶりだ？去年の七夕以来か。
…七夕。うっわ、ムカつく。そういえばあいつどうしてっかな。ま、関係ねーけどさ。
七夕ってなんだ。そんなもん俺は知らね。


クローゼットの少し奥を漁ってみる。

あ、あった。
その浴衣は濃紺に淡いグレーで胡蝶蘭の模様が施されている。


胡蝶蘭か、前小塚がなんか言ってたな。思い出せねーけど。俺花には興味が湧かね。
これからはちゃんとあいつのオタク話にも付き合ってやっか。


浴衣をハンガーに丁寧にかけ、明日着ていけるように吊るしておく。


準備終わったし寝っか。

明日、か。
そんなことを考えながらぽすっとベッドにダイブした上杉はなんでか布団を頭から被ってギュッと目を閉じた。


＊＊＊


胡蝶蘭の花言葉が「純粋な愛」で
小塚が胡蝶蘭の豆知識を話しながら
「上杉は純粋そうだよねー。」
なんてほのぼのした顔で言われたことなんて上杉は思い出すよしもなかろう。
そしてピュア上杉が明日発揮されるなんて今頃夢の中の当の本人は思いもしないだろう。


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美門智

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