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side.Kota




宏太「……ごめん。」


上がっていた心が静まった。


光が傷つくなんて思わず自分の好きなように言ってしまった。


行動をしてしまった。


暫くの沈黙から口を開いたのは光だった。


光「俺……俺さ、この家に来てから何となくここで過ごしてた気がして落ち着いてたんだ。


母さんが言う通り、俺にピッタリな人達が迎えてくれて嬉しかった。浮かれてたんだよ。俺。」


涙も拭かずに光は話した。


光「俺が母さんに捨てられて施設に入れられたことも、ずっと俺が母さんを待ってたことも、


何も無かったかのように母さんが俺を迎えに来たことも


全部……覚えてるんだ。……思い出したんだ。」


雄也「……え?」


こっちも見ずに話を聞いていた高木は、ソファから顔を覗かせた。


光「それでも皆のことは思い出せない。どうしても、どんなに頑張っても無理なんだよ。」


1度見えた希望が、暗闇に飲み込まれた。


もう戻れない。どんなに戻りたいと願っても戻ることはできない。


無理やり引き止めていた光を俺らは捕まえることなんてできなかった。


俺たちの時計はあの事故の日で止まったまま、動くことなんてもう無い。


鈍器で頭を殴られたようだった。


頭が重く感じて、ドクンドクンと心臓がうるさく響いた。


心の奥がぎゅっと締め付けられて、握りつぶされるような寒気が体を強ばらせた。


光「俺はもう、みんなが思う俺に戻れない。……母さんが言ってたピッタリな人達は、前の俺にピッタリな人達で。


今の俺には……。」


光は俺らの顔を見て、言葉を詰まらせた。


雄也「いいよ。この際ハッキリ言えよ。」


光「……勘違いしてたんだ。


ここが俺の居場所だって。」


俺らを引き離したあの事故が残した爪痕は、思いのほか深く深く残り続けた。


そしてその爪痕は、忘れた頃に疼き俺らを苦しめる。


この日、俺らはまたバラバラになった。


もう戻ることなんて無理だと神が嘲笑ったように、その日の夜空に浮かんだ有明月が俺らを淡く照らした。



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華代(プロフ) - はじめまして。 一気読みでしたが、素晴らしい作品で、感動しました。 また初めから読んでみたいと思います。本当にお疲れ様でした! (2021年2月4日 18時) (レス) id: d952e3b0da (このIDを非表示/違反報告)
まる - 今までお疲れ様でした!俺らシリーズ含め猫チャロさんの作品が大好きです。占ツクから離れた時期もこの作品だけは思い出しては読み返していました。完結まで書いて頂き感謝しかありません。この作品に出会えたことを幸せに思います。 (2020年8月6日 4時) (レス) id: 9463c2f9d9 (このIDを非表示/違反報告)
You(プロフ) - チャロちゃん居なくなってごめん。影でずっと見てたよ。今までおつかれ様でした!悠樹 (2020年2月14日 11時) (レス) id: 6822cd0dae (このIDを非表示/違反報告)
光音 - こんばんは。今お話読ませてもらいました。猫チャロさんのお話、大好きです。伊野尾さんのキャラ設定、私の中のどストライクでした。これからもまだ読んだことのない猫チャロさんの子供、読ませてもらいます。ありがとうございました。 (2020年1月27日 20時) (レス) id: df7638da7e (このIDを非表示/違反報告)
青空と虹(プロフ) - 今までありがとうございました。そして、お疲れ様でした。寂しいですが、猫チャロさんの子供たちを大事に大事に読み返そうと思います。このアカウントを作って活動を始めたのは、猫チャロさんのお話を読んで感動したのがきっかけでした。人生を変えてくれてありがとう。 (2019年11月15日 1時) (レス) id: 4cc456b6d8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:猫チャロ | 作者ホームページ:http  
作成日時:2018年10月6日 18時

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