第171夜 鼓動の音 ページ24
目の前に広がるは荒れ果てた地。
そして建物の焼け焦げた臭いと、人の肉が焼けた異臭。
「ママ…」
小さく小さく。今にも消えてしまいそうな声が何処からか聞こえてくる。
そして幾人もの焼死体の中、黒焦げた小さな身体を抱くファーラン。
「ママ〜…パパ〜…。こわいよ…あついよ〜、た…すけ…て…」
ヒュー、ヒュー、と。
満足に息すら吸えない喉が音をたてる。
この声には僕も聞き覚えがあって。
「…あれ? テス? 起きて…。あれ? おーい…」
怖い怖い。助けて助けて。
その言葉だけその焼けた口から紡ぎ出すと、もう動くことも喋ることも無かった…。
「うあああ!!! テス〜!! テス…ああ、あああ〜どうしてこんなことに…。こんなはずじゃあ…こんなはず…テス、テス〜。うわああああっ!!!」
そんな彼女に駆け寄るワヒード。
僕の視界の端で、ただ立ち尽くすイスナーン。
その視線の先には血だまりと誰かも分からない肉の欠片。
でも。確かに、共に転がる神杖は…。
『兄さんはそのままで十分クールだよ』
僕等を見送ってくれた優しい人。
料理が上手で、兄弟思いで、兄として慕うイスナーンが大好きなセッタの物…。
そしてその傍に横たわるもう1人の焼死体が目に入り…、
「…、え」
「A…?」
繋がれていた手を解いた僕を不思議に思ったのかソロモンが声をかける。
その側に膝をつき震える手で頬と思われる部分を触ろうとした時、
「A、姉…?」
もはや形すら成されていないその姿。
だけど、それでも。分かってしまったのだ。
「…ライ?」
声をかけると伸ばされた片腕。
「A姉…。あつ…いよ…。くるし…よ…。助けて…」
太陽に反射する綺麗な金色の髪も、キリッとした顔も何もかもが黒焦げで分からなくて。
必死に伸ばされたその手を握り締めようと触れた瞬間…、
パラ…。
「…なに、え?」
パラパラと崩れ落ちていく肉体。それでも掴もうと必死に触れるが、悲しいまでにそれは叶わなくて。
「ライ、ライ!!」
「Aもう止めろ! 」
駆けつけたソロモンに手首を掴まれる。
「ライ…?」
あれから言葉を発しない彼。
嫌な予感がして心臓に耳を当てる。
だけど脈打つ鼓動の音なんて聞こえなくて。
それは、つまり…。
「ライ!! 悪ふざけするんじゃないの起きて!! ライ!!!」
「A…っ!!」
目の前の現実を隠すようにソロモンに抱きしめられる。
お願いライ。また呼んで?
『A姉』って、また僕の名前を呼んでよ…!!
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千年彗星(プロフ) - 夢雪さん» 読んでいただきありがとうございます! そして泣いてくださるなんて…! アルマトラン編を好きと言ってもらえて嬉しいです、ありがとうございます! (2018年3月25日 20時) (レス) id: c15a2aa7e8 (このIDを非表示/違反報告)
夢雪 - 悲しすぎるです!(´;ω;`)ウッ…すごく泣きました。無意識に気づいたら泣いてました。アルマトラン編私好きです。 (2018年3月25日 16時) (レス) id: a2e26e90a4 (このIDを非表示/違反報告)
千年彗星(プロフ) - ティナさん» だいぶ落ち着いてきました(*^^*) 声をかけてくださり感謝感謝です!! それに加え何回も見てくださってるとは…!! ゴールデンウィークあたりにはできると思うのでそれまで待っていてくださると嬉しいです(*^^*) (2017年4月28日 12時) (レス) id: 5483d583eb (このIDを非表示/違反報告)
ティナ(プロフ) - お久しぶりです! 落ち着いてきましたか? 何回も繰り返し見てます! 更新楽しみにしてます! (2017年4月27日 21時) (レス) id: c9a6aed029 (このIDを非表示/違反報告)
千年彗星(プロフ) - マロンクリームさん» コメントありがとうございます!! だんだん落ち着いてきたので更新もそろそろできると思います! これからもよろしくお願いします(*^^*) (2017年4月23日 0時) (レス) id: 5483d583eb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:千年彗星 | 作成日時:2016年6月25日 22時