薄 明 時 雨【 原神 】

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　地上にも出回っていない代物だが、十中八九愚人衆(ファデュイ)が手に入れた物であろう。私は関わっていない事柄なので少々気になる…
　ありがとうございます、と差し出された札をじっと眺めていると、ふと札の文字の黒いインクのようなものが掠れているのに目が行った。まるで新しく書き写したかのような…

　ああ、そういうことか。どうやらこの札は愚人衆(ファデュイ)が手に入れた物ではなく、愚人衆(ファデュイ)が複製したものらしい。
　考えれば確かにそうだ、構成員(わたし)が付いているとはいえ、実態すら掴めていない旅人なんぞに重要なアイテムを渡すはずもない。



　───「A？」札と睨めっこをしてそれっきり考え込んでいた私が不思議だったのか、気になることでもあったの、と旅人は私の視線の先の札へ目線を下ろす。「いえ」と柔く否定を入れ、私は札の字を目で沿った。




「珍しい物だな、と思いまして。…時間も惜しいので、そろそろ出発しましょうか」




　札を手に椅子から立ち、旅人へと目線を移す。まさかまだ私の同行に納得していないのか、少しだけ眉間に皺を寄せていた。

　「どうしたんだ空？Aもこう言ってることだし、出発しようぜ！」「…そうだな」パイモンに吊られるように、旅人もすくりと立ち上がる。それでは行きましょうか、私について来てください──と、私も港の外側へ歩きを進めようと体の向きを変えた。

　「…A」旅人の声が聞こえたのと同時に、くいと突然袖を引っ張られる。なんだなんだとそちらへ振り向けば、何か言いたげに俯く旅人の姿があった。




「俺が、守るから」




　目と目が、かち合う。ゆっくりと、はっきりと発音されたその言葉には、表面上の意味だけでないものも含まれているように思えた。

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