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 恋愛にまつわる話はそもそもあまり得意ではない。更に言えば、まあこういう仕事をしている以上人気商売な訳だから、インタビューなどで結婚などの話題を振られた時は完全に流れを断つようにしていた。元々結婚願望は薄い方だし、結婚に興味が無いというポーズで乗り切るのが得策だと思っていたのだ。


 一般的には正解だったのかも知れない。けれど彼女には――彼女にだけは、不安な思いをさせてはいけなかったのではないか。


「……いや、すまん。Aさんにそう思われてるって可能性を考えてなかった俺が悪い」


 言わなくても悟ってくれる、分かってくれる。その環境に甘えていた自分が居たのは事実だ。外ではああ言っているけれど、それはそれとして俺の本心は別な所にあるよ、と。言葉で伝えずとも彼女なら理解してくれているなんて勝手に思っていた。本当に大切な事はきちんと伝えるべきだったのに。


「俺はさ」


 不安と諦観の色に染まる彼女の瞳を、正面から真っ直ぐ見据える。大切な話をつい誤魔化してしまいがちな自分を、せめて今この時だけは何処か遠くに捨て置いて。


「俺はAさんと、ちゃんと一緒になりたいと思ってるよ」


 今すぐにとは言えない。でも、この先の数十年を共に過ごしていくのなら、こんなだらしのない俺でも家庭を作れるのなら、相手は彼女でしか有り得ない。


 彼女は一つを息をつくと瞑目し、何か考えるような素振りを見せる。それはもしかしたらほんの一、二秒だったかも知れないが、何故だか妙に長い時間のように思えた。その後ゆっくり開かれた瞳には、先程までの鈍色はもう無かった。


「……駅から徒歩十分以内で駐車場がある所」
「え?」
「何か希望無いか、って訊いてきたのは拓司くんでしょ」


 肩を竦めて少し呆れたように微笑んだ彼女は、手元のコップに手を伸ばして中のミネラルウォーターをぐっと煽った。実にいい飲みっぷりだ。どうやら俺の気持ちはきちんと伝わってくれたようだった。



 

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奈都(プロフ) - のんさん» コメントありがとうございます。それぞれの気持ちに寄り添って書いてきたつもりではあるので、感情移入して頂けているととても嬉しいです。やっぱり最終的にはきっちりゴールインしてほしい…!と思いつつ亀の歩みですが、これからも見守って頂けると幸いです。 (2021年10月1日 22時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
のん(プロフ) - 更新に歓喜です‼︎Gravityから読ませていただいている側としては感情移入しすぎて、若干泣きそうになりましたが、結婚考えてくれてたんだとホッとしました(笑)何度読み返してもキュンとできる奈都さんの小説、、私の元気のもとです! (2021年9月26日 2時) (レス) @page31 id: 1f7bb03b81 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:奈都 | 作成日時:2021年1月31日 13時

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