▼ ページ21
「Aさん顔、顔ヤベぇから」
「いやいや、だってそれをたとえ話だと前置きされた上で聞かされる私の立場にもなってほしいんですけど」
「だからたとえ話だろ」
「なんか急に怖くなってきた。この後、お酢と塩を揉み込まれたらどうしよう」
「山猫軒ね。一応、俺に食人の趣味は無いから安心してください」
当たり前だ。万が一にもそんな傾向があったら百年の恋も冷めてしまうだろう。何となく反論したくて、目の前に見える黒い頭、その前髪を軽く掻き分けて額をツンとつついてやった。
「でも、この後、『食べる』んでしょ？」
「そりゃ勿論」
額に当てた私の手を掴んだ彼は、一瞬だけ指先に唇を寄せ、それはそれでいい笑顔で頷いた。テレビ向けのような紳士風の笑顔を、こういうタイミングで見せられると弱い。
「だから余計大事にケアしたいの。Aさんの肌はAさんの物だけど、実際堪能するのは俺じゃん」
「うーん、否定は出来ないけど……」
どうも良いように言い包められている気がする。まあ、どうでもいい話と言えばどうでもいいし、彼の言っている事自体には何も間違いは無い。
「拓司くんって、今までの彼女にもこんな甲斐甲斐しい事してたの？」
「俺、そういうタイプに見える？」
「見えない。から訊いた」
「じゃあそれが答えだろ。こんな事すんの、Aさんが初めて」
「……ふぅん」
「ほら、後ろやるからうつ伏せなって」
結局、私も単純な女だから、彼のそんな言葉だけでも舞い上がってしまうのだ。さて、どうせ食べられるのならせめて上質な下味をつけて貰おうと、ソファにうつ伏せで転がるのだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1291人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
奈都(プロフ) - のんさん» コメントありがとうございます。それぞれの気持ちに寄り添って書いてきたつもりではあるので、感情移入して頂けているととても嬉しいです。やっぱり最終的にはきっちりゴールインしてほしい…！と思いつつ亀の歩みですが、これからも見守って頂けると幸いです。 (2021年10月1日 22時) (
レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
のん(プロフ) - 更新に歓喜です‼︎Gravityから読ませていただいている側としては感情移入しすぎて、若干泣きそうになりましたが、結婚考えてくれてたんだとホッとしました(笑)何度読み返してもキュンとできる奈都さんの小説、、私の元気のもとです！ (2021年9月26日 2時) (レス) @page31 id: 1f7bb03b81 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：奈都
| 作成日時：2021年1月31日 13時
