注文の多い料理店(izw) ページ18
風呂上がりの彼女は、いつも念入りにボディクリームを塗り込んでいる。特に乾燥し易い秋から春先までは丁寧に塗り、ついでにマッサージも兼ねているようで、その時間に邪魔をしようとすると割と本気で嫌な顔をされる。
いつだったか、邪魔しようとちょっかいをかけた時「拓司くんの為でもあるんだから」と怒られた事があった。つまり彼女の肌に触れるのは俺ぐらいしか居ない訳で、単純に肌をケアするという意味合いの他に、俺が触れた時の肌触りが良いようにという事情も兼ねているのだろう。勿論、ありがたい話ではあるのだが。
「Aさん」
「んー?」
「それ、俺がやっちゃ駄目?」
「え?」
二の腕にボディクリームを塗り込んだ姿勢のまま、彼女がこちらを見た。いきなり何を言い出すんだ、と顔に書いてあるのが分かる。
「なんで?」
「何となくやってみたいなーと思って。ふくらはぎとかマッサージするんだろ」
「そうだけど……。じゃあ、脚の方をちょっとお願いしようかな」
俺の思考を読み取るのを諦めた顔をして、彼女が一つ頷いた。特に深い考えなど無いと判断されたんだろう。実際、本当に特に深い意味は無かった。ただ、ちょっとコミュニケーションを取りたいなと思っただけだ。
一年前から何だかんだで一緒に過ごす事が増えたものの、俺と彼女の連絡を取る頻度は、一般的な恋人同士のそれに比べると低い方だと思われる。週末しか共に過ごしていなかった時でも、週中の丸五日は全く連絡を取らないなんて事もあったし、何よりお互いにそれが苦にならないのだ。
更に同じ部屋に居る時でも、俺は俺の仕事を、彼女は彼女のやりたい事をして過ごすのが殆どで、果たして一緒の空間に居る意味があるのかと突っ込まれそうな具合だ。けど、これもやっぱり苦にならない。二年近くの交際期間で培ってきた、二人の形というやつだ。
とは言え、当然ながら積極的にコミュニケーションを取る事も、恋人としての付き合いの中では必要な訳で。たとえばそれが今みたいな時間なんだろうと思う。
「Aさん、うつ伏せて貰った方がやり易そう」
「ん、分かった」
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奈都(プロフ) - のんさん» コメントありがとうございます。それぞれの気持ちに寄り添って書いてきたつもりではあるので、感情移入して頂けているととても嬉しいです。やっぱり最終的にはきっちりゴールインしてほしい…!と思いつつ亀の歩みですが、これからも見守って頂けると幸いです。 (2021年10月1日 22時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
のん(プロフ) - 更新に歓喜です‼︎Gravityから読ませていただいている側としては感情移入しすぎて、若干泣きそうになりましたが、結婚考えてくれてたんだとホッとしました(笑)何度読み返してもキュンとできる奈都さんの小説、、私の元気のもとです! (2021年9月26日 2時) (レス) @page31 id: 1f7bb03b81 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:奈都 | 作成日時:2021年1月31日 13時