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 言いながら、彼は私の右手にチラリと視線を寄越す。右手の薬指には十月、交際して一年の記念日に彼がプレゼントしてくれた指輪が嵌められていた。


「これで?」
「そう、それで」


 虫除けに着けといて欲しい、なんて彼が言うものだから、毎日の出勤時にもきちんと着けているのだけれど、どうもその事が色々な憶測を呼んでいたらしかった。尤も、職場の人間は私の恋人が彼である事は知らない。彼が一緒に居る場で「どうしたのその指輪」なんて根掘り葉掘り聞かれた時は、流石に返答に少々窮してしまった記憶がある。


 しかしまさか、知らない間にそんな話になっていたとは。ブーケをキャッチした事で、その噂に益々拍車が掛かってしまうのだろうか。別にいいけど若干面倒臭いかも知れない、と思っていると、





「本当に、次は俺らにしちゃう?」





 あまりにも自然に、そんな声が聞こえた。


「え……?」


 カツリ。ヒールの音も革靴の音も、ほぼ同時に止まった。隣に立つ彼の顔を見遣ると、私よりもずっと早く彼の瞳は私の顔に向けられていたようだった。付き合うよりも前からずっと変わらない、全てを射抜いてしまいそうなほどに意志の強い瞳。私が射抜かれたのも、もう随分昔の話になってしまったように思う。


 私も彼も二十代後半だし、何なら彼は次の誕生日で三十路だし、流石に結婚を全く意識していなかったと言えば嘘になる。今日の福良さんと彼女さん改め奥さんを見て、いつか私もあんな風に――なんて夢見る気持ちが増したのも事実だ。更にブーケトスで見事に花嫁のブーケをゲットしてしまった訳だし。


 今の彼の発言はどういう意味なのだろう。本気か、それとも軽い冗談か。或いは冗談を装って本気を潜ませ、私の出方を伺っているのか。恐らく最後の可能性が高い。ならば、私はどう返すのが正解なんだろうか。


「それって――」
「と、言いつつもだな」
「え?」
「ブーケ貰ったの見て意識したとか思われるのは癪だし。何なら俺だってちゃんと前から考えてはいたし」
「駿貴さん?」
「何より俺は、将来Aが子供に『ママはね、パパにこんなに素敵なプロポーズされたのよ』って自慢げに語る所を見たいので、こんな道端でサラッとは言わん」
「ぷっ……、あはは!」




 

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奈都(プロフ) - のんさん» コメントありがとうございます。それぞれの気持ちに寄り添って書いてきたつもりではあるので、感情移入して頂けているととても嬉しいです。やっぱり最終的にはきっちりゴールインしてほしい…!と思いつつ亀の歩みですが、これからも見守って頂けると幸いです。 (2021年10月1日 22時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
のん(プロフ) - 更新に歓喜です‼︎Gravityから読ませていただいている側としては感情移入しすぎて、若干泣きそうになりましたが、結婚考えてくれてたんだとホッとしました(笑)何度読み返してもキュンとできる奈都さんの小説、、私の元気のもとです! (2021年9月26日 2時) (レス) @page31 id: 1f7bb03b81 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:奈都 | 作成日時:2021年1月31日 13時

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