たいやきが十一匹 ページ12
___「アンタはここで降りて」
遠い記憶の女の人。私の母親という立ち位置のその女性に、母親らしいことをしてもらった記憶は何も残っていない。
毛先がクルンとカールした金髪に、白い肌によく映える真っ赤な口紅。そして大きくぱっちりとした瞳だけが今も記憶に残っている。母親との思い出は数える程しかなく名前ももう覚えていない。
父親は生まれた時からいなかったから、顔さえも分からない。。
「ママ、ここ、どこ?」
母親をママ、と呼ぶのは別に悪いことじゃないし至って普通だ。でもそんなことすら許されなくて。
「あたしをママって呼ぶなっつっただろ!!!これからアンタとは別に暮らすんだからもうてめぇなんか知らねぇんだよ!!!」
二度と目の前に現れんな、とだけ残して私の母親は私を施設に置いていった。
でも、別に悲しくはなかったし、恨みを抱いたという訳でもない。
あの時は世間をまだ知らなかったけれど、それでも違和感は拭えなかったから、いずれこうなる気がしていた。
施設の生活もちゃんとご飯食べれてラッキー、ぐらいにしか思っていなかった。
でもどこへ行っても寂しさだけは拭えなかった。
学校も行かせてもらえたけど、クラスの皆の話にはお父さんとお母さんが出てきて、どうしてもそこで他人との間に壁を感じてしまう。
クラスの子と遊びたかったけど、施設は山の中だったから放課後はすぐに帰る毎日。
お父さんもお母さんもおじいちゃんもおばあちゃんもお兄ちゃんもお姉ちゃんも弟も妹も、誰も私の周りにはいない。
寂しい。
高校生になって、私は施設を出た。
高校はめちゃくちゃ勉強を頑張って特待生として入学した。それでも生活費はいっぱいいっぱいで、バイトも始めた。修学旅行も行けるか行けないかぐらいのギリギリのラインだから。
「とまあ、こんな感じです…」
気がつくと、今までの経緯を全て三ツ谷くんに話していた。
「……やっぱり、びっくりしましたよね?」
そう聞けば三ツ谷くんは気まずそうに頷いた。
「お前、凄いな」
三ツ谷くんは私を慰めるように微笑んだ。
「A」
「……?」
「オレらいつでもお前の助けになるからさ、気使うなよ?お前のが年上なんだから、敬語もなしで」
「わ、分かりま…分かった」
「それと」
「う、うん」
「オレのこと三ツ谷じゃなくて隆って呼んでよ」
そう言った三ツ谷くんの耳は真っ赤だった。
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切猫(プロフ) - イチゴミルクさん» コメントありがとうございます(^^)本作を楽しんで頂けて嬉しい限りです!灰谷兄弟とても迷っていたので参考になります…!三途君はちゃんと夢主と絡ませるつもりですので楽しみにお待ちください♡ (2022年10月9日 18時) (レス) @page17 id: 4abe33d0e2 (このIDを非表示/違反報告)
イチゴミルク(プロフ) - 初コメ失礼します!夢主ちゃん可愛すぎるっ…三ツ谷君とかもちょいとタジタジになってるの尊…オチに関してなのですが,三途君か灰谷兄弟見てみたいなと…希望なので,他の方々でも全然有りです!!!無理しない程度に更新頑張って下さい!応援しておりますっ (2022年10月9日 16時) (レス) @page17 id: 4b77fe0276 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:切猫 | 作成日時:2022年10月2日 10時