幸か不幸か ページ3
入院生活も早1ヶ月。何だかんだと結局個室に戻れる事はなく、殆どを大部屋で過ごした。
全治2ヶ月という診断が嘘かのように術後経過は良好で驚異の回復力を見せ、このまま安定すれば後1、2週間程で退院も出来るだろうと担当の医師は言っていた。
そもそも何故こんな大怪我をしたかと言うと、事の始まりは突然取れた全休だった。
11月の頭、世に言うブラック企業に勤める竹中Aは運良く取れた全休に、駐車場で眠る愛車のバイクを朝から走らせ実家のある名古屋にまで帰って来ていた。
朝唐突に帰る連絡を入れたものだから、お店があるから相手をしている暇はないと両親には言われてしまったが、元々少し顔を出すだけのつもりだったので問題ないと答えた。
日々の疲れをものともせず、3時間程バイクを走らせれば見えてくるのは見慣れた街並み。
地元に安心感を覚えながら下町を行けば、見慣れた建物が。
改めて帰ってきたという実感と共に実家の駐車場に停まる自家用車の前にバイクを我儘に横付けして隣の店に入る。
いらっしゃいませー!という大きな声はすぐにおかえりという優しい声に変わった。
「ただいま、母さん」
「ちょっと! お盆にも帰って来んと思っとったら何その髪型! やっと帰ってきた息子が不良になったわ!」
左側頭部の剃り込みに気付くなり大袈裟に泣いた振りをしながら騒ぎ立ててくる。
「なっとらんわ! これは、ただの気合い入れだよ」
店中で騒ぐものだから、どうしてもお客さん達の視線が集まる。
「もう! 大人しく仕事しとってよ! 俺顔出しに来ただけだからもう帰るから!」
「折角帰って来たばっかなのに、寂しいがね」
「わかったわかった。また連絡入れるから」
そう言って出入口へ向かおうとするとちょっと待っとってと声を掛けられ、そのまま母は厨房の方へ入っていってしまったので大人しく待つ。
邪魔にならないよう出入口の横に移動しお客さんを眺めて暫くすると、店の小さな袋を提げて母が戻ってきた。
「これ、焼き立てのくるみパン。好きでしょ」
「うん……好き。ありがとう」
呆気に取られていると、渡せた事で満足したのか嬉しそうに母はレジの方に戻っていく。
パンの温かさと店を満たす芳しい香りに胸を来るものを感じながら今度こそ出入口へ向かい、ドアに手を掛けて振り向く。
「い、いってきます」
「いってらっしゃーい」
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ヘーゼルナッツ先輩(プロフ) - くずをさん» くずをさん初めまして!コメントありがとうございます。そう言って頂けてとても嬉しいです。励みになります。次の更新ごろにはknさん出るんでもう暫くお待ち下さい……! (2020年3月23日 6時) (レス) id: afa2b77f18 (このIDを非表示/違反報告)
くずを - 好きです!もっと評価されるべき!次の更新待ってます! (2020年3月22日 22時) (レス) id: f3d3ee67c0 (このIDを非表示/違反報告)
ヘーゼルナッツ先輩(プロフ) - むむさん» むむさん初めまして!コメントありがとうございます。物凄く元気が出ました。もう間もなく更新致しますのでもう暫くお待ち頂けると嬉しいです! (2020年3月16日 16時) (レス) id: a2d6eb8699 (このIDを非表示/違反報告)
むむ(プロフ) - 初めまして、コメント失礼します。文章がとても丁寧で彼が出てくるまで全然読めるな…私も全然読むな…という感じなのでコメントさせて頂きました…(?)更新楽しみにしています…! (2020年3月15日 15時) (レス) id: 30887f6f4e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ヘーゼルナッツ先輩 | 作成日時:2020年3月10日 22時