師弟関係-男主- (ページ48)

今日:13 hit、昨日:17 hit、合計:34,830 hit

Reunion.ⅣⅩⅥ ページ48

_

郁葉は独り残された部屋に居続ける。

だが、何を思ったのか。

先程、敦を抱えて出ていった青年を捜す…と云う事をしようと食堂から出て行くのだった。

_

「……却説、何処に居るのだろうねぇ…」

散歩を嗜んでいるようにも見える。…否、正にそうであるのだが。

数米(メートル)行った処で、青年の姿を見付ける事が出来た。

無論、男は声を掛けようとした。

が、しかし。

青年以外の"声"も混じって聴こえてきた為に躊躇してしまい、その場に留まる羽目となった。

ひとつは青年の声だ。

だが、もうひとつの声は──郁葉が手子摺っていると云っても良い、青年の実妹の声であった。

声…否、清涼な少女の声が響く。

「…流石に不味かったんじゃない？」

「………五月蝿え、大体、糞頭…野郎が悪りぃんだから良いだろ…って」

「……相変わらずね、…」

と、ふと少女の声が途切れた。

そして郁葉が居る辺りに向かって声を掛けたのだ。

「…出て来たら如何ですか？」

少女の言葉に青年の顔が曇る。

「……何で居んだよ…糞野郎」

それを咎める様に、少女が青年の顔を見詰めようと向かい合わせになり、云う。

「…屹度、その人……の事とか…兄さんの事が心配何だと…思うけど？」

「…別に心配される様な事はしてねぇだろーが」

「……頭目にとってはあるんじゃない？」

最早、反論の余地もない。

青年は項垂れ、「…糞野郎何て嫌いだっつーの！」と力なく云うのだった。

傍で葛藤する青年の声を瞼を薄く閉じて聴いていた郁葉は、微笑みながら青年の近くに行き、云った。

「僕は君の…寛君の事が好きだよ、迚も大事で大切な───」

云った。と云っても、最後まで云い終えなかったのが現状であったのだが。

何故なら───郁葉の躰が部屋の隅まで吹っ飛んでいったからだ。

吹っ飛んでいる中で、骨が変な音を立て、曲がった気がした。

そう郁葉は部屋の隅で呻き、喘ぎ、挙げ句の果てには何処か遠くを見詰め乍、云った。

「……何時もに増して、今日は一段と───っ！」

云っている最中、顔を顰め、更に遠くを見据え出す郁葉。

「何か」が此方へと近付いて来る気配がした。

唯、それだけな筈なのに。である。

「手前、俺を電話一本で呼び出すのは、いい加減にしろ。って云わなかったかァ、なぁ…？」

「何か」───中原中也は憤り乍、伝えたのが出掛ける前最後の会話だった。

_