叶わない 〜side story〜 ページ46
慎ましくも幸せな安らぎの日々。
そんな日常の中には、常に暖かい笑みを浮かべる貴女がいた。
ーA姉さんー
もう二度と
貴女のその温もりを感じる事も、日溜りのような笑顔を向けられる事も、叶わないのだろうか...
ーーーーーー
夜目を瞑ると、A姉さんに送り出された最後の日の情景をよく夢に見た。
「炭治郎!これも付けていって。気休めにしかならないかもしれないけれど、幾分暖かい筈だから」
そう言って、炭治郎の首に手製の襟巻きを巻きつけてくれる。一瞬触れたその指先は驚く程暖かくて、心が穏やかになった。
ただ...彼女の瞳は不安に揺らぎ、行かないで、ここに居てと言われているような気がしたのに、俺はついにはその手を離してしまう。
そして、夢の最後には決まって彼女はこう言った。
「炭治郎...何で守ってくれなかったの」
「っー!」
その瞬間、冷や汗を全身から吹き出させ、一気に眠りから覚醒する。異常に呼吸が浅く、じんわりと視界が滲んだ状態のまま目線を動かすと、鱗滝さんが静かに佇んでいた。
「...大丈夫か?随分とうなされていたが」
「..鱗、滝さん」
夢だとわかって、僅かに落ち着きを取り戻す。
そんな彼の額の汗を、鱗滝さんは優しい手付きで拭ってくれた。
「嫌な悪夢を見たのだな。」
「....っはい」
あの時、俺が山を降りなければ..
日没までに家に戻れていれば..
そうすれば、何かが変わっていたのだろうか?
そう思わない日はなかった。
あの惨劇から、とうとう1年余りが経とうとしている。
彼女との再会は未だに叶わない。
A姉さんがまだこの世に生きているのかも、死んでいるのかすらわからない。
...望みは乏しいと、思い始めていた。
そんな考えが頭をよぎる度に、張り裂けそうな胸の痛みに襲われる。
何故なら彼女には何も伝えていない。
何も出来ていない。
本当に、何もだ...
俺は前に進むのに、彼女はあの時のままの姿で、俺の記憶の中、手の届かぬ場所で、ただ微笑むばかり。
彼女に貰った襟巻も、時が経過すればする程匂いが
なのに、彼女への焦がれた想いだけは、色褪せる事なく残り..
嫌だっ..
苦しい.....
彼女の居ない時間の経過が、酷く堪え難かった。
「A姉さん...好き、好きだ。ごめんな、守れなくてごめん、会いたい、会いたいよ...」
伝えられなかった思いを、ただうわ言のように繰り返すしか叶わない。
137人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
八千代(プロフ) - あーちゃんさん» コメントありがとうございます!頑張って更新しますので宜しくお願いします(*´-`) (2020年6月9日 13時) (レス) id: 5c1b6b975d (このIDを非表示/違反報告)
あーちゃん - すごい面白いです!これからも頑張ってください(*´∀`) (2020年6月8日 20時) (レス) id: 20ef85385a (このIDを非表示/違反報告)
八千代(プロフ) - 果鈴さん» ありがとうございます(*´-`)!かしこまりました。無一郎が夢主を好きな理由については少し語らせていただきますので、少々お待ち下さいね。 (2020年6月4日 7時) (レス) id: 769605b6ca (このIDを非表示/違反報告)
果鈴(プロフ) - 初コメ失礼します!すっごい面白かったです!1つ思ったんですが、無一郎君が夢主を好きなのって、日寄さんの過去と同じようにしてるからですか?(語彙力無くてすみません) (2020年6月4日 6時) (レス) id: 71e0ecb3e1 (このIDを非表示/違反報告)
八千代(プロフ) - みかやしさん» コメントありがとうございます!いやいやそんな大そうな文は書けてません(汗)でも、嬉しいですありがとうございます(*´-`) 頑張って更新しますね! (2020年5月24日 7時) (レス) id: 769605b6ca (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:八千代 | 作成日時:2020年5月12日 19時