【企画設定集】龍神様に祈る。【派生作品】

とある日。 ページ24

「むりい」

「無理じゃないでしょ。早くやりなさい」


お母さんも忙しいんだからね。
母はそう言って、ピンク色の着物を縫い直していた。先日学校から帰り道、何もない道端で久しぶりにずっこけたのだ。盛大にお気に入りの着物は破れてしまって、ありとあらゆるところから血がにじみ出た。涙が溢れそうになるのを家まで必死に我慢して、それで母に泣きついた。母は呆れたようにため息をついて、「縫っとかないとね」とだけ言ったのだ。

またそのせいで、いつもの着物ではなく、祖母のお古の黒い着物を着ることになったのだもの。それだけ悲しくてたまらない。学校に行くのすら嫌なのだもの。



逢瀬礼子とはこういう子供である。もう16になったというのに、彼女の涙腺は3歳児と同じ。少しでも嫌なことがあれば、自分の想いとは関係なく、ボロボロと涙が溢れるのだ。


「もうやあ！」


開始から4時間。ついに礼子は立ち上がる。
もう正座のしっぱなしで足が痛いし、いくら考えてもわからないし、お母さんは教えてくれないし、何より服が黒なんだもん。

えぐえぐと涙を流しながら、礼子は家から飛び出す。なんで長期休みの宿題をたった3日で終わらせないといけないの。それに！4時間！って！！！ひどい！！！

走って行く礼子を見て、着物を縫っていた母が呆れたようにため息をついた。



礼子は縁側から草履を引っ掛けて走り出す。涙を拭きながら走る。着物がもつれて走りにくいけれど、それでもとにかく走るのだ。


そしてしばらく走った後に、古い民家に入っていった。玄関にたどり着いて大きく息を吸う。


「げえんさあん！」



声を聞いた家の主人が、礼子の母と同じように呆れたようにため息をこぼした。

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