検索窓
今日:2 hit、昨日:1 hit、合計:5,161 hit

4話*龍久 ページ7

_待って、貴方はまだ、死んじゃ駄目だ…



落下防止に立てられた柵に寄りかかり、眼下の小川をぼんやりと眺める。

遠い記憶を思い出していた。
小雨が降っている。下駄が土をズリッと抉って、彼は川へ落ちていった。

手を伸ばしても、どうあがいても、僕には彼らを助けることができなかった…。
神様なのに?いや、”所詮”土地神だからだろうか。


東京都三鷹市にて。玉川上水が、相も変わらず流れている。

ふと気がつくと鴨が二羽、連れ添う様にゆっくりと浮かんでいた。
一体、何をしているんだろうか。餌でも探してるのかな。


「あれ、こんにちは。今日は本は持ってないんだ。」

突然声が聞こえたと思ったら、リズムのある足音とともに、運動服の男性が走ってきた。
この時間帯によく会う、ジョギング中の田中さんだ。地域の馴染み深いおっちゃんである。


「あっ、うん。本は置いてきちゃった。」

僕が笑って応えると、彼はふと思い出したように口にする。

「そういえば、すごいね。神さまだって?その土地の。」

唐突なその言葉に、少し動揺しながら首を傾げる。
彼は何を言っているのだろうか。もしかして、僕のこと?

「えっ?なんですか、神様?」

「あれ、知らない?最近土地神さまが人の姿で出てくるって、この辺でも結構噂になってるよ。」

なんだか曖昧な話だ。出どころを突き詰めてみたい気もする。

「まあ本当に人の姿で見えるんだったら、俺の愚痴でも聞いてもらいたいかな…はっはっは!」

話を詳しく聞く前におっちゃんは言うだけ言って、それじゃ、と走り去ってしまった。
それなら目の前にいるんだけど…すぐ行っちゃったな。川に向き直って、つい心の中で苦笑してしまう。


「でもどこからそんな噂が…。あまりに不意をついた話だな…。」

再び一人になったところで、静かに呟いてみる。
噂なんてものは、誰が言い出したか分からないし、信憑性も低い。

…でも、誰かが”あえて”噂を流しているとしたら?


そこまで考えて、僕はかぶりをふって取り消した。こんなのただの杞憂にすぎない。少し考えすぎだろう。

でも、もしかするかもしれないし、最近他の人と会ってないから、僕だけ聞いてないのかもしれないし…。

ちょっと誰かに確認してみようかな?都心に向かって散歩ついでに、あくまで散歩ついでに!


自分の中で理由をこじつけてから、急いで川上へ向かって早足で歩き出した。


後から少し気になって振り返ると、もうそこに鴨たちはいなかった。

5話*メロンパン×2→←前ページ



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (13 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
4人がお気に入り
設定タグ:神様の戯れ。 , 企画小説 , オリジナル作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

メロンパンのメロンパン(プロフ) - MISAKI#さん» ありがとうございます!こちらは神様の戯れ。という企画の合作となっております。もしよろしければご参加ください! (2020年2月24日 12時) (レス) id: 9329d1e699 (このIDを非表示/違反報告)
MISAKI#(プロフ) - 題名見て面白そうだったので来ました!設定好きです…! (2020年2月24日 11時) (レス) id: 5900aac5bd (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:メロンパンのメロンパン x他5人 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2020年1月9日 16時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。