4話*龍久 ページ7
_待って、貴方はまだ、死んじゃ駄目だ…
落下防止に立てられた柵に寄りかかり、眼下の小川をぼんやりと眺める。
遠い記憶を思い出していた。
小雨が降っている。下駄が土をズリッと抉って、彼は川へ落ちていった。
手を伸ばしても、どうあがいても、僕には彼らを助けることができなかった…。
神様なのに?いや、”所詮”土地神だからだろうか。
東京都三鷹市にて。玉川上水が、相も変わらず流れている。
ふと気がつくと鴨が二羽、連れ添う様にゆっくりと浮かんでいた。
一体、何をしているんだろうか。餌でも探してるのかな。
「あれ、こんにちは。今日は本は持ってないんだ。」
突然声が聞こえたと思ったら、リズムのある足音とともに、運動服の男性が走ってきた。
この時間帯によく会う、ジョギング中の田中さんだ。地域の馴染み深いおっちゃんである。
「あっ、うん。本は置いてきちゃった。」
僕が笑って応えると、彼はふと思い出したように口にする。
「そういえば、すごいね。神さまだって?その土地の。」
唐突なその言葉に、少し動揺しながら首を傾げる。
彼は何を言っているのだろうか。もしかして、僕のこと?
「えっ?なんですか、神様?」
「あれ、知らない?最近土地神さまが人の姿で出てくるって、この辺でも結構噂になってるよ。」
なんだか曖昧な話だ。出どころを突き詰めてみたい気もする。
「まあ本当に人の姿で見えるんだったら、俺の愚痴でも聞いてもらいたいかな…はっはっは!」
話を詳しく聞く前におっちゃんは言うだけ言って、それじゃ、と走り去ってしまった。
それなら目の前にいるんだけど…すぐ行っちゃったな。川に向き直って、つい心の中で苦笑してしまう。
「でもどこからそんな噂が…。あまりに不意をついた話だな…。」
再び一人になったところで、静かに呟いてみる。
噂なんてものは、誰が言い出したか分からないし、信憑性も低い。
…でも、誰かが”あえて”噂を流しているとしたら?
そこまで考えて、僕はかぶりをふって取り消した。こんなのただの杞憂にすぎない。少し考えすぎだろう。
でも、もしかするかもしれないし、最近他の人と会ってないから、僕だけ聞いてないのかもしれないし…。
ちょっと誰かに確認してみようかな?都心に向かって散歩ついでに、あくまで散歩ついでに!
自分の中で理由をこじつけてから、急いで川上へ向かって早足で歩き出した。
後から少し気になって振り返ると、もうそこに鴨たちはいなかった。
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メロンパンのメロンパン(プロフ) - MISAKI#さん» ありがとうございます!こちらは神様の戯れ。という企画の合作となっております。もしよろしければご参加ください! (2020年2月24日 12時) (レス) id: 9329d1e699 (このIDを非表示/違反報告)
MISAKI#(プロフ) - 題名見て面白そうだったので来ました!設定好きです…! (2020年2月24日 11時) (レス) id: 5900aac5bd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:メロンパンのメロンパン x他5人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2020年1月9日 16時