【32】結晶化 ページ42
A「浪川くん」
Aの声は小さく、ひどくかすれて、機械みたいに感じた。
浪川「A!大丈夫か?」
Aの目は深い藍色をしている。じっと見たことはあまりなかったかもしれない。ああ、一度だけあった。
No.A「あんまり、いま、忙しい」
浪川「いま、家に連れてってやるからな」
あのときはまだ、何も知らなかった。自分の恋が危険であること。自分の愛した女が普通ではないこと。
A.i 「ワたし、いわナきャ」
そんな女を、心から愛してしまっていたことを。
Aは腕を動かした。かくかくと不自然に動いて、俺の頬を触った。五つの指先が俺の頬を冷やした。
A「浪川くんが、いる」
するとAは急に、不自然さがなくなった。手は変わらず変に震えているが、声だけはいつものAに。
浪川「おう。俺はずっとそばにいてやる。いまはなにも考えるな。もうすぐそこだから」
俺はAを励ますようにそういった。しかしAは頬に触れていた手でぎゅっと俺の襟を掴んだ。
A「止まって」
Aの目は真剣だった。
俺は立ち止まり、Aが降りようとしたのでそっとおろした。案の定Aはよろけたので、この愛しいバカを抱き抱えた。
A「いま言わないと忘れちゃうから」
それは俺の心にぐさりと刺さった。なぜ、という疑問よりも、失望が胸に広がる。
A「私ね、忘れちゃってたの
私は浪川くんみたいにお父さんとお母さんから生まれていないの。
私はお父さんに造られた、人形だったの。すっかり忘れてたけど、自分のことを思い出したよ。
浪川くん。私は人形だけど、ニセモノの人形だけど、私は」
浪川「うるせえ!」
俺は、涙をこらえながら怒鳴った。
浪川「ニセモノなんかじゃねえ!
………ニセモノなら壊れたりしないだろ。お前が本当に悩んでるから、おかしくなったんだろ?」
A「そうだといいな」
俺はAにキスしようとして、肩を掴んだ。Aは『壊れたロボットのように』だらりと崩れ落ちた。
浪川「Aっ………!」
俺は、Aの亡骸を抱き締めて泣いた。
今日の海の男!
浪川「おい、そこのお前!…俺の彼女になれ!!」
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涙音(プロフ) - *文月*〜huduki〜さん» 返信遅くなってごめんなさい。こんな風に誉めていただいたのははじめてです。書いていて良かったです........!実は近々この続編を上げることになりました。もしよろしかったら読んでみてください。本作よりさらに良いものになるよう精一杯執筆いたします。 (2016年12月11日 23時) (レス) id: 541fead6be (このIDを非表示/違反報告)
*文月*〜huduki〜(プロフ) - 私は5年くらいこのサイトで色々な小説を読んできましたが、その中でこの作品がダントツで面白いです。もっと熱く語りたいのですが、文字数の上限をこえそうなのでこれくらいにしておきます。気持ちが伝わると嬉しいです。これからも素敵な作品を作っていってください。 (2016年11月14日 10時) (レス) id: bb022945e6 (このIDを非表示/違反報告)
涙音(プロフ) - 律華@Twitterはじめました。さん» コメントいただいて久しぶりに戻って参りました…とりあえず少しだけ更新しましたが、夏休みに完結できたらと思います!すっかり放置してました… (2015年7月4日 21時) (レス) id: 71e3a373e6 (このIDを非表示/違反報告)
律華@Twitterはじめました。(プロフ) - 更新頑張ってください!続き見たいです! (2015年7月4日 5時) (レス) id: 7cb333b288 (このIDを非表示/違反報告)
海王星(プロフ) - 久しぶりの更新だね笑 相変わらずの素晴らしい文才!期待に胸が弾むぜ( ´∀`)← (2014年8月9日 17時) (レス) id: c49ea11c01 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:涙音 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/enkorimatsue/
作成日時:2014年1月14日 1時