岩本さんは、気づいてくれない。【黄】

恋の始まり ページ4

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「はーい、ストップ！」



トラックを何周も走っていたら、照に呼び止められた。

荒い息遣いの私の手首を掴んで日陰へと連れて歩き出す。

いつもの彼ら"ダンス部"の休憩場所である体育館前の階段に腰を下ろせば、照はクーラーボックスに入れてあるスポドリを一つ取って私にくれた。



「これ1つ貰うなー」

「いいよ〜。て、あらAちゃん、ちょっと顔色よくないんでない？」



スポドリを受け取って、深澤先輩に会釈すると、なんだなんだと他の先輩達も集まってくる。



「あ、またハイになってたとかぁ？ 駄目だよ、限界まで頑張るのも凄いけど、休む時はちゃんと休まないと」



とヘラヘラ笑いながら団扇で扇いでくれるのは佐久間先輩。



「そうだそうだー。休むのも大事ぃ」

「そうそう！うんうん！」

「翔太と辰哉は休みすぎだけどね」

「………」

「なぁんでそんなこと言うのよー！？」



深澤先輩の彼女にズバリ言われて泣き真似をする深澤先輩に、とくに堪えてない渡辺先輩と、それを見てゲラゲラ笑う佐久間先輩。


ここはいつも賑やかだな。


「煩いの放っといて、ほら早く飲みな。んで今日はもう帰ろう」

「…ありがとう。照はもう終わり？」

「うん。だって見てみあれ？ もうあいつらやる気ねぇもん」


照の方が後輩だけど、先輩たちを纏めてるってのは本当なんだ。
周りをよく見てて、気遣いもできて凄いなあ照は。








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「それで、なんか悩んでんの？」

「え？」



着崩した制服姿の隣に学校指定のジャージ姿の私。

背が高くてお洒落でかっこいい照は、通り過ぎていく女子達の視線に気付いてるのかな。



「お前が我武者羅に走る時って、なんつうかしんどそうだから。走るの楽しいって感じでいつもなら走るのに、今日のお前しんどそうだった」

「………はは、」



なんで分かるのかな。

誰も私の変化になんて気付いたことないのに。

大会も近いからいっぱい練習してて偉いね、くらいしか言われないのに。



わしゃわしゃ……



「わっ！？」


突然頭を大きな手が掻き回すから、ちょっとグラってきた。

なに？と、見上げると「無理すんなよ」て。




「実は、」




照になら言えるかなって。

笑わずに聞いてくれるかなって。




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