岩本さんは、気づいてくれない。【黄】

記憶の中の子 ページ21

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「ふっか、最近どうよ？」

「どうって？」




大人になっても定期的に開かれる飲み会。


ダンス部の気の合う仲間だけが集まる。




「なんか浮いた話とかねえの？」

「ないね〜。そういうお前らはどうなのよ？」



ラーメン屋を継いだふっかに、親父の会社で営業をしている佐久間、美容にとにかく煩い美容師の翔太。
だいたいいつもこのメンバーだけ。



ジョッキを傾けながらふっかの目線が俺に向く。

うわ、こっちに飛び火しそう。





「ふっかさ、そろそろ良いんじゃねえの？」

「んー、なにがあ？」

「なにがって。なんなら可愛い子紹介するけど？」

「えーそれって、ナベの店のお客さん？ それってだいたいナベ目的だべ？」

「悪ぃ、俺モテるんだった」

「ふふふ、気持ちだけ受け取っとくわ」



あ、良かった。
翔太のおかげで俺に話題が向かずに済んだ。

俺らの年齢も２０代半ばを過ぎてるからか、こういった話題が時々出るんだけど誰も浮いた話しがないってのがまた俺ららしいというか。




「なあ、照ぅ」

「ん？ なに、佐久間」



翔太とふっかが楽しそうにじゃれ合ってんのを見ながら、机に頬肘ついていつもより早めに酔ってしまったらしい佐久間が言う。



「自分に正直に生きるって、結構難しいのな」

「……なに急に。真面目なやつ？」

「んにゃ。ちょっとねぇ。照なら、どうすっかなぁって思ってさ」

「なにが？」

「にししっ。なーいしょ」

「なんだよそれ」




皆それぞれあるんだなって感じた。


浮かない顔をした佐久間や、いつもよりやたらテンションの高い翔太。


そして、





「照こそ、いい相手居ねぇの？」

「いい相手なぁ」




店に入る前はザーザーと降っていた雨も帰る頃には上がっていて、雨が苦手だと眉を寄せていたふっかは汚れたスニーカーを見つめて寂しげに笑った。


きっと元カノの事を思い出すんだろうな。



とか言う俺が思い出した相手は、これまで付き合ってきた彼女の中には誰一人としていない。



雲間から覗く月を見上げて、俺が思い浮かべた相手はアイツだった。






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