Stars ページ46
その「そうだね」は、智の言葉の本質を 理解しないままの空っぽな返事だったのだが、
それを知ってか知らずか…
涙で潤んだ瞳で、俺のほうを見上げた智は、
はにかむように下唇を噛んで、寂しそうに ふにゃ、と笑った。
曖昧なその表情に、俺は安心よりも切なさを感じることを禁じ得なかったけど、とにかく
永遠に続くかと思った涙は途絶えた。
智は上半身をむくっと起こして、ふるふると頭を振った。
「カズのシャツ、乾いてる」
立ち上がって、流木の上に広げていたシャツを持ってくる。
海水に一度濡れた半袖のシャツに、細かな塩の粒がついているのを、丁寧に払ってくれた。
「あーごめん、ありがと」
「しわくちゃ…」
「いーよ(笑)乾いてよかった」
しわしわになったシャツは、礒の香りが染みついていた。
「くさい」と笑って智に嗅がせると、「夏のにおい」と言って嬉しそうにシャツの裾を噛む。
「あー!もう!今から着るんだから食うな(笑)」
シャツを噛む高校生なんて、ティッシュを食べちゃう赤ん坊より厄介だよなあ…
と心の中で苦笑する。
だけど、いつも通りの智が戻ってきて、俺は少しホッとした。
智が、見たことのない顔をしたり、聞いたことのない声を出すと、俺はなぜか必要以上に動揺して、体力を消耗してしまうらしい。
サーモンピンクのパーカーを脱いで、シワシワになったシャツに着替える。
もう十分すぎるほど温まった体に、薄いシャツの感触が気持ちよかった。
「寒かったでしょ、ごめんね?」
そう言いながら智に返すと、「んーん」と平気なカオしてそれを羽織る。
健康的な肌色に、サーモンピンクは やっぱりよく映えた。
まだ温かさの残る砂浜に、二人並んで寝転ぶと
雲一つない夜の空に
幾千もの星が、惜しみなく瞬いていた。
「見て智、めっちゃ綺麗だよ」
横を見ずに言ったら、返事の代わりに、すう、と深く息を吸う音が聞こえた。
「…せめて… 夢 のな か で…---」
呟くように、優しく、まるく…だけどはっきりと響いた歌声。
”せめて 夢の中で 自由に泳げたら あんな空もいらないのに”
その美しいフレーズを、艶やかな声で歌い上げた智は
くすくすと楽しそうに、星空に向かって手を伸ばす。
掴めやしないのに、何度も何度も、ぎゅっと空中で手を握った。
俺は、ただひたすらに、その手の中に…星のかけらでもいいから
収めてあげたかった。
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【AquaTimez『ALONES』より 一部引用】
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作者名:きんにく | 作成日時:2020年4月19日 0時