Lost(side O) ページ44
子どものころ、公園で見つけたたんぽぽの花。
黄色いちいさな花びらが、ぎゅっとたくさん集まっていて
ぽよんと風に揺れるのが、たまらなく愛らしかった。
『それはね、大きくなったら 綿毛を飛ばすんだよ』
一緒にしゃがんでくれた、やんちゃに汚れた膝小僧
『おおちゃんは、花が好きだね?』
黄色い花が、綿毛になるのをずっと見ていたい。
この愛らしい花を、ずっとそばに置いておきたい。
大切にたいせつに持っておけば、きっと
きっとふわふわの綿毛になるに違いない。
だから、その花を、ぷちんとちぎって
落とさないように、注意深くぎゅっと握った。
地面から、人の手に渡ったばかりのそれは
まだいきいきとしていて、甘い、春のにおいがした。
..『…もう雅紀に近づかないで…、…』
だけどそれは、いつまでたっても綿毛にならなかった。
きりりと張っていた小さな黄色の花びらは
1日もたたないうちに急速に萎え
それから弱々しい茶色に変色していった。
茎を持っても、だらんとむなしく垂れ下がり
花の部分を触ると、死んだ花びらがボロボロと落ちた。
...『自分が人を不幸にしてるって、分からない?…』
『おおちゃんは、花が好きだね?』
だいすきだ
だいすき
揺れるたんぽぽも
その瞳のおくの、深いみどりも
ずっとそばに置いておきたくて
とびきり大切にしたくて
うんと愛したくって
でも、手に取ったら、枯れてしまった。
....『…疫病神』
腐った花は、苦くて臭くて、むっとする緑の味がした。
『大ちゃん、ごめん』
花も、人も
『ごめんね…』
大切にしていたはずなのに
大切にしたかったのに
気付いたら、隣でぼろぼろに なっている。
壊して、しまうから
もうだめだと何度も心に誓って
だけどその美しさを前にすると
やっぱり手を 伸ばしてしまう。
『俺、二宮和也って言うんだ』
『…智?眠いの?』
『…バカでも風邪引くのな?』
そうして
いずれは全て失うと分かっていながら
また、大切なものが、増えていく。
「カズが、いちばん大事にしてるのに、ピアノ……この手で弾くのに」
これも
いつか
無くなんのかな
.
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作者名:きんにく | 作成日時:2020年4月19日 0時