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crazy crazy ページ43

「泳いでたら…、横でカズみたいな人が溺れてて、それで引っ張り上げた」

「……はい」

「そしたらカズだった…名前呼んでも返事しなくて、だから急いで」

「…俺はあの断崖絶壁から飛び降りたバカな青年を助けようとしたんだよ」

「うん、それで、溺れたんでしょ?」


目の前の無垢な顔をひっぱたいてやりたかった。

もしくは海岸で立ちすくみながらも、勇気を出して足を踏み出した 過去の俺を抱きしめてやりたかった。

もしくは過去の俺に「行くな!ヤツは遊んでるだけだ!お前の方が死にかけるぞ!」と言ってやりたかった。



「おれが海に落ちて死ぬと思って、助けに来たカズが溺れた」


さっきから溺れた溺れたって。

なんだこいつは。なんでそうハッキリと口にする?

誰のせいで溺れたと思ってるんだ?


「ああそうだよ!悪かったよ!逆にお荷物になってなあ!?」

「ちがう…、だから…、ごめん」


「……え?」


耳を疑った。

そういえばいつの間にか、夕日がもう半分も落ちている。


俺の肩には温かいパーカー。

そのせいで智はあらかじめ用意しておいた上着がないのだろう、
濡れたズボンだけ履いて上半身は何も着ていない。


「苦しい思いさせてごめん」

「……え、いや…」


恥ずかしさや照れを知らないみたいに、まっすぐな瞳を逸らさない。


「息もできなくなってた、手だって氷みたいに冷たくて、カズが」

「ちょ、よしてよ…さっきのは冗談…」


あまりにも真剣な目に、恥ずかしくなって逃げようとしたら

ふわりと手を握られた。


「カズが、いちばん大事にしてるのに、ピアノ……この手で弾くのに」



.




智は、人の心なんてこれっぽっちも理解してないように見えていた。

ただただあの透明な目で、人の弱みを見透かすだけで

きっと誰にも何にも伝えないまま、誰の心にも寄り添えないまま

生きているのだと、思ってた。



だけど、ほんとうは

ほんとうは、ただ素直なだけで


大好きなものを、大好きな人を、大好きなときに大切にし

それ以外のものには見向きもしない。


残酷すぎるほどの素直さ。

無慈悲な純粋さ。


【大ちゃんと一緒にいるのは、苦しいよ…】


智はきっともう、いつかのペットボトルの水の美しさを愛せない。


【人のことも、ぜんぶ……ふつうには、愛せないんだよ…】


智の綺麗な手。温かい。

こんなに大切に、触れられているのに…


なんで…


どうしてこんなに…苦しいんだろう…?




.

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作者名:きんにく | 作成日時:2020年4月19日 0時

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