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piano ページ42

無理やり海水を吐いたら、喉が焼かれるようだった。

海水にさらされていた身体が、風に当たってすごく寒くて

震えながら、もう何も出ないのに嗚咽をくりかえす。


「……カズ、」


手がビリビリと痺れている。

…手?

ああ、そうだ…そもそもこの手が、ミスばかりして

弾けなくなって今日ここに来た

本当なら家で練習してるってのに……


コンクールまであと何日だ?俺はここで何をしてる?

喉が痛い。燃えてるみたいだ。

手も動かない。寒い。


ああ……また…


息ができない…



「…っは…、」


気休めにもならないのに胸を抑えた。

苦しい…


「…だいじょぶ…、…ゆっくり」


ふわ、と温かい温度を感じて、何かと思ったら

スウェット生地のパーカーを肩からかけてくれていた。

智のにおいがする。花のような香りだ。


縋るようにぎゅっと 胸の前で手繰り寄せた。


「いい、無理に吸わなくて」


パーカー越しに、大きな手が背中を撫でてくれる。


「さと…っ、」

「ん……」


ゆっくり、ゆっくり背中を往復する手が

呼吸をもとに、戻してくれる…



そのとき、俺の顔色を伺う智は、見たことのない表情をしていた。

眉が凛々しく寄せられ、戸惑いの欠片もない大人びたカオ。

慣れたような手つき。落ち着いた声。言葉…。


だけど…、どうしてそんなに…

悲しい目をしてるんだろう……?



.




「ふー……」

最後のひといきを深く吐いて、もう大丈夫だと目で示した。

痺れ切っていた手は、智のひとまわり大きなそれが包んで温めてくれていた。


「これも、もういい?」


そう言ってするりと解ける手。

グーやパーにして動かすと、問題なく動いてホッとする。


そして唐突に思い出した。


「あ!智!…崖から飛び降りた子がいたんだよ!俺の他にもうひとり溺れて…だから俺…」


「おれだよ、ソレ」





…は?


「…は?」




思考と言葉が一致するとはこのことだ。

智が崖の方を指差す。


「あっこから海見てた。んで 飛び込んだ」


断崖絶壁。

目視でも、ゆうに5メートルはあるその崖。

しかも下の海は大しけ。



バカじゃねぇの?


「バカじゃねぇの?」




.

crazy crazy→←Sea is...



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作者名:きんにく | 作成日時:2020年4月19日 0時

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