Sea is... ページ41
【もうだめだ、死ぬ……】
そう思って、こういうときって走馬灯とかもないのかあ、まあもしあったとしてもピアノだらけでつまらないだろうな、とそこまで考えた。
とにかく苦しくて苦しくて、もう早く楽にして…と
身体の力を抜いたとき。
ものすごい力で腕を掴まれ、上へと引っ張られた。
.
「…カズ?」
耳で鳴っていたゴウゴウという海の音が、海面に顔を出したことによって”ザバーン”という波と風の音に変わる。
長い間(数秒かも知れなかったけど永遠に感じた)海中で溺れていたせいか、
引き上げられても「ぷはっ」とは なれなかった。
依然としてうまく息はできず、身体に力が入らないまま、その人の腕の中に収まっている。
意識すら朦朧として、目を開けているのかいないのか…
ぼんやりとした視界で、俺を引き上げてくれた人の顔を捉えた。
「カズっ」
あれ…なんだこれ…
智に見える…
そう思った瞬間、グン、と体が前に進んだ。
智(に見える人)は俺を高めに持ち上げて、顔に水がかからないようにスイスイ泳いだ。
たぶん俺が泳いでくるのより3倍くらい速いスピードで海岸まで帰ったと思う。
自由の利かなくなった身体で次に感じたのは、砂の温かな感触。
「…さ…、っ」
智、と呼ぼうとしただけなのに、息もできない状態で言葉がつなげるわけがなかった。
俺を砂浜に横たえて、シャツを脱がせたこの人は本当に智だろうか?
俺が死ぬ間際に見たかった幻影とかじゃない?
てゆうか、崖から海に落ちたあの子は?まだ助けられてない…
「…だいぶ飲んでる。出して」
声を聞いたら確信した。いつもより落ち着いていて低いけど…これは智の声だった。
智がここまで運んできてくれた…?なんで…?なんで智が居る…?
上体を起こされ、長い指が喉の奥まで入って来た。
「んっ…、ゲホっ…、…ぐ…、うぇっ…」
自分の出したものが、ボタボタと砂浜の上に染みを作る。
汚い海水が、血と混ざりあって出てきた。
ここ最近、ろくに食事もとらずに、ピアノを弾いては嘔吐しての繰り返しだったから、食道が荒れているのかもしれない。
ああ、そういえば、睡眠もマトモに取れていなかったっけ…
それにずっと部屋でピアノ弾くしかしてない生活…体力が落ちているのは分かりきっていたのに
どうして海で泳げるなんて思ったんだろう?
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作者名:きんにく | 作成日時:2020年4月19日 0時