Sea is cool. ページ40
「えっ………」
落ちた。
落ちたよな…。今、人が落ちた?
目の前で起こったことに頭が真っ白になる。
ちがう。真っ白になってる場合じゃない…!
「だっ……誰か…!だれ………か…」
平日の午後の海。なぜこんなにも人が居ないんだろう。
海岸を散歩する人も居ない。平和ボケしてそうなチワワを連れた夫婦くらい歩いてればいいものを…。
「くそっ…」
その人が落ちたところまでは、海岸から20メートル弱と見えた。
往復して40メートルくらい…学校のプールと変わらない。距離だけは。
心臓がバクバク鳴っている。
あのへんは波が荒い…泳いでいけるにしても、人ひとりを抱いて戻って来られるだろうか…
迷っている暇はないのに足がすくむ。
自分が置かれている状況にクラリとした。
でも…見たんだ…、見たモンは無視できないよな……
深呼吸になってない形だけの深呼吸をして、海岸の砂を蹴った。
「つめた…」
ザバザバと暴れる波を掻き分けて、崖の下へ急ぐ。
夏なのに、夕刻近い海の温度は意外にも低くなっていた。
海はすぐに深くなって、足が着かなくなった。ゴウン、と大きな波が襲ってきて、口や鼻から海水が入って来る。
咳き込みながら、それでも目を凝らして進んだ。
冷たい海水は急速に体温を奪っていき、目を痺れさせる。
何度も波に呑まれそうになりながら、崖の下までたどり着いたとき、
ぷかぷかと、人の背中のようなものが浮いているのが目に入った。
ああ、いた…!
「おい!!!…っ、だいじょう、………ブッッ」
その背中に手を伸ばしたとき、ザバン!と、ひと際大きな波が来て…
それに体を持っていかれた俺は、グンと海に沈んだ。
自力で浮き上がろうとすると、崖で跳ね返った潮の流れに、またもみくちゃにされる。
さっきまで進んできた険しい道とは、比にならないくらい崖の下は危険だった。
息継ぎもできず、海水の入った肺がキンと痛む。声を出すなんてもってのほかだ。
耳に入るのはゴウゴウという海の音。
視界はぐちゃぐちゃで、何が見えているのかすら分からない。
あ、コレ…もしかして
溺れてる…?
.
185人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:きんにく | 作成日時:2020年4月19日 0時